今日も夕食はカキフライにした。もちろん、職場に併設されている高級スーパーで売っていた半額の代物だ。たまたま2袋だけ売れ残っていたので、好都合だった。
それにしても、やっぱり牡蛎は伊勢志摩に限る。ちょっと小振りなのだが、その分ぎゅっと旨味が詰まっていて、熱を通すとその味わいが、ググッと増す気がするからだ。
そんな私の熱い想いが詰まっているだけあって、今回のカキフライは敢えてタルタルソースでは無く、塩とソースにした。
「お、今日も美味しそうだね!」
勇一が張り切ってビールの準備を始めた。フライを揚げている時は換気扇を着けるものなのだが、何故か今回はそれを忘れてしまった。そのため、部屋は脂臭さが充満しているのだが、ちょっと場末の居酒屋風でこれもまた良い。
「そうだ。後ね、一応揚物だけだと良く無いと思って、ワカメとタコの酢みそ和えも作っておいたんだ」
「うれしいね。やっぱり、この幸せがあるから頑張れるよなぁ」
「お味噌汁もおいしくできたよ。ささ、食べよ食べよ」
とにかく、素晴らしい作りの部屋なだけあって、食事の時には本当に気合いが入る。二人用の小さなテーブルには、その大きさの倍以上はあるだろう幸せが詰まっていた。
「そういえばさ、由香さんが離婚するらしいよ」
「え!由香さん?どうして」
「いや、ちょっとヴィジュアル系バンドのライブにうつつ抜かし過ぎたみたでさ。旦那が結局、不満爆発って感じらしい」
「それだけ?それって、別に前からそうだったような気もするけど…」
「いや。由香さん所さ、二人とも正社員じゃないし、アルバイトみたいな仕事でしょう」
「確かに結構カツカツって言ってたなぁ」
「だろ?でさ、その大切な生活費を嫁が独りでが理解不能なバンドのライブにコスプレして行くってなったら、普通嫌でしょ」
「確かに…。あれ、結構キツいかもね」
「一度許してしまった分、どうも歯止めが利かなくなっていって、結局お金も底をつく。まぁ、話し合う余地も無いぐらいって凄いけど」
「何か、そんな理由でダメになっちゃうんだね…」
「二人とも結構スピード結婚的なノリだったしね。深い所では繋がることができなかったんだよ」
私は何故か折角のカキフライが不味くなってしまう、と思っていたが、他人の不幸は蜜の味。自然に3本目のビールの蓋を無意識に指が空けてしまっていた。