物語.34

「店長。宜しくお願いしますね」

開店15分前になると、統轄グループの社員がテナントを周り配布物を配って歩く。宜しく、と言って渡されたプリントには衝撃の内容が書き込まれていた。

「ちょ、ちょっとこの作戦?」

「店長、どうしたんすか?」

東野君が不安そうに私を覗き込む。

「この前の店長会議でさ、他のショッピングセンターとの違いを出すみたいなこと言ったんだけど」

「はい…」

「まさかだよ、これ」

その時、社員が各テナントに集合をかけてきた。エレベーター前に急に呼び出された店員達はざわめきを隠せない。

「ええと、急で申し訳ありません。実は先程、配布させてもらったプリントなのですが、みなさんお持ちでしょうか」

カサカサと紙が擦れる音が響いた廊下で、社員が思い面持ちで話始めた。

「色々検討したのですが、みなさん。福袋を年末用にフライングして別でできませんか?」

「はい」

「どうぞ」

「それって、かなり無理ありませんか?それでなくても、忙しいのに…」

「ちょっと、苦しくないですか?」

「わかります。みなさまのお店の社長様にはこちらから御連絡をいれさせて頂きますので」

社長、というワードを聞くとほとんどの店員が黙りだす。私も最初ビックリしたが、ある意味チャンスと思い出した。

実は、練り総菜店は年末になるとおせちの具材を沢山販売する。これを、敢えてまとめてしまえば、バランス良く入荷商品はさばけるチャンスなのだ。

「すみませんが、そういうことなので皆様宜しくお願いいたします」

ここまで、不安と怒りが満ちた人達の集団を見た事がない。そう思わせるような、各テナントの店員達が文句をたれながら店へ戻って行った。

「店長、なんだったんですか?」

「実は、年末に福袋やるんだって」

「へぇ…。って、マジスか!?」

「一応、年始もしっかりやらなくちゃならないけどね」

「確かに、今斬新な福袋って様々な所でやってますが…、時期が斬新ですね」

毎年人手が足りない年末なのだが、今年は,確実に増員が必要になりそうだ。福袋の中身から、アルバイトの用意。まだまだ、年末に向けてやらなくてはいけない事が山積みだ。

つづく

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