食のグローバリゼーション 3

天井からオブジェのように吊り下げられる巨大な豚の足

~ スペイン マドリード ハム屋 ~

現代の日本では洋食が定着し、ハムは手軽な食材として利用されている。ス-パーの売場にも数多くの種類のハムが並んでいる。そのほとんどは、真ん丸の形をして、しっかりとパックされている。持ち運び、取り出しには、とても便利なパッキングだ。自宅でフィルムを剥がすだけで、すぐぱくつくことができる。効率化が追及される現代社会に適した食材と言える。

スーパーに並ぶハムを眺めるだけでは、ハムが豚の肉を使った加工品である痕跡を見出すことはできない。豚肉を塊のまま塩漬けしたり、燻煙したり、湯煮したりして作るのがハムだ。日本で見かけるハムは、薄くスライスした加工品にしか見えない。形、色、厚みが均一で、工業製品であることがはっきりとわかる。いわゆる、安心安全な食品がスーパーに並んでいるのだ。数枚一パックで売られているハムの中に一枚でも不揃いのものがあると、消費者は不良品と判断することになるのだろう。

しかし、原材料となる豚には種類がある上に、育った環境も餌も違う。体型も違えば、肉の色合いだって千差万別のはずだ。百匹百様の素材を使いながらも、規格通りの均一な食品を加工することが、世界に誇る日本の工業技術だ。

スペインのマドリードの街角で、ハム屋を見かけた。天井から豚の足がぶらぶらと吊り下げられている。絵柄がリアルではあるが、各々の個性をもって並ぶ姿はオブジェ風に見える。最初はハムとは気づかずに、豪快に並ぶ豚の足を眺めていた。巨大な肉のかたまりを丸ごと買って帰る人はいるのだろうか。肉片を一つ買えば、毎日毎食の食卓にハムを登場させなければならなくなるだろう。

スペインの主食はパンだが、そのパンには必ずといっていい程、ハムが添えられる。スペインの主食はパンではなく、パンとハムと併記することができる。スペイン人の毎日の食生活にハムは欠くことができない存在だ。

日本では固定化された商品となっているハムは、スペインでは豊富な種類があり、奥も深い。最も一般的に流通しているハムは、生ハムの「ハモン・セラーノ」だ。白豚の肉を塩漬けにした後、長い間、気温が低く乾燥した場所に吊るして乾燥させて作る。同様の製法を用いながら材料をイベリコ豚に変えたものが、「ハモン・イベリコ」だ。生産数量がハモン・セラーノより少なく、はるかに高価なものになっている。乾燥期間が長く、2年から4年の歳月を要することが、生産量や値段に影響を与えているのだろう。

さらに、高級ハムを追い求めると、素材のイベリコ豚の餌が変わる。どんぐりを主食に育ったイベリコ豚を材料としたのが、最高級品の「ハモン・デ・ベジョータ」だ。きっとスペイン人にとっても高値の花で、特別な日にしか口にすることはない。スペインでは、豚の種類、餌の違い、そして前足、後ろ足の違いによって何種類ものハムにランク分けされているのだ。

一日一日の気分に合わせて、食べるハムの種類を選ぶ。口に入れたときの味わいを思い浮かべながら、肉片に包丁を入れるのはさぞや楽しいものだろう。パンに挟んでサンドイッチにしたり、サラダ、オードブルにしたり、生ハムメロンのように果物と一緒にしたり、ハムの味わい方にも様々な方法がある。スペインの代表的なワイン、リオハ・ワインにとっておきのおともになる。

勿論、日本人の主食のご飯にもよく合う。薄くスライスした豚肉は、オールマイティーで食べやすい。ただ、生産工場の加工品としてではなく、人手で丹念に熟成されたハムを日本で味わうことができる日が来ることを望みたいものだ。

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