アジアの遺跡に見る時空を超えたアート 27

日本の精神文化をヴェトナムに持ちこんだ仏閣

~ ヴェトナム ホーチミン ヴィンギエム寺院 ~

一般的に日本人の信仰心はそれ程深いものではないと言われるが、日本は紛れもない仏教国だ。538年頃、百済の聖明王の使者が欽明天皇に、金銅の釈迦如来像や経典、仏具などを献上したことによって、日本に仏教が伝来したとされる。以来、朝鮮半島や中国から、様々な仏教文化が次々に日本にやってきた。その文化伝播のベクトルの向きは、諸外国から日本への一方向と考えられがちだ。でも文化は相互に影響し合うものだ。日本から諸外国に文化を逆発信することだってある。

ヴェトナムを代表する国際都市、ホーチミンの市街地から、海外との窓口となっているタンソンニャット国際空港に向かって、ナムキーコイギア通りが走る。ホーチミンのメインストリートとなっている通りは一日中、現代のヴェトナムの風物詩ともいえるバイクの洪水となっている。市街地と空港を結ぶ通りのほぼ中央に、ホーチミンで最も大きな規模を誇る寺院、ヴィンギエム寺院が建つ。日本への留学から帰国した僧侶が、1964年から7年の歳月をかけて建立した寺院だ。

グエンバラングによって設計された寺院は、ヴェトナムの伝統的な建築様式を採用したと言われるが、完成後まだ約40年の真新しい建築物は、全体的にモダンな印象を与える。ナムキーコイギア通りに面して建つ赤色の二重屋根の正門を潜れば、バイクのけたたましい音響とは全く無縁の世界が広がる。

静かな境内の中心には、幅22メートル、奥行き35メートル、高さ15メートルで、2階建ての本堂が建つ。正面の門と同じ、赤色の二重屋根が特徴的だ。左右対称の構造物には安定感、落ち着きが漲っている。壁の中央には永厳寺の文字が記される。ヴェトナムには数多くの中国人が暮らしているため、漢字による名前がつけられたのだろう。日本には、福井県敦賀市に同じ名前の寺院があるようだ。本堂の中には正面に釈迦摩仏像、右側に普賢菩薩像、左側には文殊菩薩像が安置されている。3つの仏像の間には、赤色の巨大なろうそくが立つ。ろうそくに火を燈せば、本堂の内の空間は、きっと幻想的で神々しい雰囲気で包まれることだろう。

本堂の左側には、楼閣建築の七重塔が聳える。高さ40メートルの塔は、ランドマークタワーの役割を担っている。仏陀の遺骨を奉納するストゥーパに起源をもつ塔は、ホーチミンに暮らす人々に、寺院への来訪を誘いかけているかのようだ。毎日数多くの人々が参詣に訪れ、特に旧暦の1日、満月の15日には、境内を参拝者が埋め尽くすと言う。

本堂の右側には、自然の緑に囲まれた鐘楼が建つ。白い壁に赤い屋根をもち、落ち着いた雰囲気を漂わせている。建物の中には、日本の曹洞宗の寺院から寄贈された巨大な鐘、「平和の鐘」が設置されている。そこには、日本語で「日本の佛子こぞりて捧げたる。平和の鐘はベトナムに鳴る」と刻まれる。20世紀半ばの第二次世界大戦では、日本はアジア諸国に甚大な被害を与えてしまった。「平和の鐘」から放たれる音が、戦争によって命を失った人々の霊を慰めるばかりでなく、世界平和を祈念するものであり続けてほしいものだ。

宗教ばかりではなく文化や芸術は、近隣諸国と相互に依存しあいながら発展していくものだ。現代の日本からは様々な技術がアジア諸国に伝わっている。日本から輸入された技術によって高度経済成長を遂げ、人々の生活は便利になる。それは日本人の誇りにもつながっている。でも、産業的な技術ばかりでなく精神文化の面でも、諸外国に対して働きかけていくことを期待したい。

 

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