物語.38

このショッピングセンターの7階に位置する、スターバックスは非常に広くて気持ちがよい。

屋上庭園に繋がっている、ということも手伝い、天気の良い日には外でコーヒーを飲む人も大勢いる。

「やっぴー!空いてるね、沙織」

「ね、丁度入れ替わりの時間だったかもね」

レジは3つ程あり、今日に限っては長時間並ばず、スムーズにレジで注文ができそうだ。

「えぇと…。じゃ、私はソイラテのグランデで無脂肪牛乳で」

「かしこまりました」

「あれ?お疲れ様です!」

奥の事務所から出来てきたのは、やけに背の高い男性だ。

「先程はすみません。お使いにならないのですか?」

「え、え?お使い?あ!無料券ですか?」

そうだ、地下厨房でぶつかったとき、無料券をくれた人だ。

「あ、ソイラテも大丈夫です。えぇ…と。ここで取り消しで」

由香が注文したソイラテの注文を、彼は丁寧にレジの女性にレクチャーしている。

「タダ?本当に?何で早く言わないのよ」

「ごめん!忘れてた」

「もう…。て、いうかこんなイケメンといつ知り合ったのよ」

「由香、ちょっと止めてよ」

彼は何故かニコニコしている。

「お客様は如何致しますか?」

「え?私は、普通のコーヒーで大丈夫です…」

「もう!何でタダなのに、暴走しないの?私なんかもう頼んじゃったんだから。惜しいことしたぁ」

「飲みたいものを飲むんだからいいでしょう?」

「かしこまりました」

全く由香は昔から変わっていない。どうして、こうも人見知りとかが無いのだろうか。肉食女子、という言葉を雑誌などで良くみかけはするが、まさかこんな近場に片鱗を見せている人がいるとは思わなかった。

「ねぇ。あの人さ、彼女いるかな?」

「え?知らないよ、そんなこと」

「ちょっといい感じじゃない?」

「ん…。ちょっと体育会系の香りがするし、私は苦手なタイプかな」

「私はいいと思うな。可愛くない?ちょっとバカな感じが」

「聞こえるわよ!」

「ソイラテでお待ちのお客様、お待たせ致しました」

「あ、は~い」

この人は凄い。さっきまで、普通のトーンでレジで話していたのに急にに営業ボイスになっている。まぁ、彼女に春が来ればいいし、楽しく毎日を過ごせるってことはいいことだ。

そういえば、勇一のことは大好きなのだが、毎日会いたいと思う寂しさは無い。私はともかく、彼はどう思っているのだろうか。

何か、近いけど遠いなんて言葉を良く聞くけど、今の私はそんな感じなのかもしれない。

うっすらと太陽の光りが反射した大きなガラスを見ながら、私は自然に深い溜め息を漏らしていた。

つづく

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