アジアの遺跡に見る時空を超えたアート 30

自然の山の高低差に象徴的な意味合いをもつ伽藍が構成される仏国土

~ 韓国 慶州 仏国寺 2~

韓国の古都、慶州の市街地から南東に約15キロ離れた吐含山の麓に建つ仏国寺には、最盛期の8世紀には約60棟の仏閣が寺院を構成していたと伝わる。人々が住む集落から吐含山の山裾に建つ山門までは俗世だ。一柱門を潜って寺域に入ってもまだ俗世が続く。人里から聖域までの道のりは遠く険しい。山裾から山の傾斜を登るに従って、極楽浄土の世界に近づいていくのだ。幾つかの門を順番に潜り、身を清めながら高台に足を進めると漸く、彼岸の世界に入るという演出がなされている。土地の高低差によって象徴的な意味合いが宿っているのだ。

吐含山の麓に建つ天王門から続く参道を歩いて行くと、目の前に約100メートルの高度差を繋ぐ石の階段が現れる。階段は、ほぼ中央で2つの部分に分かれ、下の18段は青雲橋、上の16段は白雲橋と呼ばれている。階段でありながら橋と呼ばれているのは、この橋に釈迦如来の彼岸世界に渡る橋であるという意味が込めているのだ。石段の先には、仏教美術の清華とうたわれる紫霞門が堂々とした姿で聳えている。

この左手にも似通った石の階段がある。蓮華橋、七宝橋と呼ばれ、阿弥陀仏の極楽世界に渡る橋という意味が込められている。階段の先には安養門が建ち、その先に極楽世界が広がるのだ。青雲橋、白雲橋、蓮華橋、七宝橋の4つの橋は、俗世と仏国土を分ける橋であるとともに、気高い世界に人々を導く架け橋の役割を果たしているのだ。これらの橋の上部に建つ山門、紫霞門と安養門は、仏の住む世界に通ずる扉として機能する。自然の山の高低差によって寺域の意味づけを行い、そこに建つ建造物は各々の役割を担う。

青雲橋、白雲橋の階段を登って紫霞門を潜ると、仏国寺の本殿にあたる大雄殿の領域が広がる。681年頃に創建されたと伝わる大雄殿の中には、本尊の釈迦牟尼像が安置され、両脇には文殊菩薩と、普賢菩薩の像が並ぶ。数多くの参詣者が列を作って祈りを捧げる空間だ。

大雄殿の前には大きな特徴的な2つの塔、多宝塔と釈迦塔が並び建つ。多宝塔は、巨石の上に変化に富んだ意匠が凝らされながらも、全体的には均整のとれた美しさを見せている。3層の構造をもち、1層目は四角形、2層目は八角形、3層目は円形のフォルムとなっている。上部にいくに従って丸みが増し、力強さから柔らかさへの変化を演出している。一方、釈迦塔は、シンプルな三層構造をもち、端正で簡素な美を誇っている。

大雄殿は境内の東側の区域にあるが、西側は極楽殿を中心とする区域が広がる。蓮華橋、七宝橋を登って安養門を抜けると、仏国土の西方に広がる極楽浄土の世界だ。極楽殿の中には全ての衆生を救済し、西方極楽浄土に往生させる阿弥陀如来の像が安置される。

仏国寺は、大雄殿と極楽殿を中心とする仏の世界だが、広々とした仏国土には、他にも数々の伽藍が建ち並ぶ。華厳経の講義を行う「無説殿」、毘盧遮那仏の蓮華蔵世界の「毘盧殿」、慈悲の菩薩である観音菩薩が祀られる「観音殿」、修行に秀でた16人の弟子を祀った「羅漢殿」などの仏閣が、仏国寺に様々な意味を付加している。

仏国寺は山の地形を巧みに利用して、仏教世界の象徴的な意味を込めた伽藍が点在している。土地の高さに従って、順に仏教世界の気高いエリアが構成されている。仏国土に入るために通過する数々の門や橋には、個別に象徴的な意味合いをもっている。山全体を覆う静けさの中を歩きながら高度を上げていくと、自然に心が清められ、極楽浄土に近づくような感覚を体験することになる。

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