駆け足でマンションに戻ると、1人で部屋の中をうろつく男性を発見した。
そもそも、つい昨日まで名前も知らないような男性が、家でうろついているというのは、非常に不思議だ。
「あ、おはよう。大丈夫?」
「え…、あ、すみません。本当にもう帰りますんで…」
「え?ううん、大丈夫だよ。今から簡単なおせちとお雑煮作るから待ってて。あ、シャワー勝手に浴びて良いわよ」
「いえ、そんな申し訳ないです」
「良いって。さ、どうぞどうぞ」
彼はきまりがわるそうな顔をしていたが、やはりアレだけ飲み明かし、シャワーを浴びないことには抵抗があったようだ。
そそくさと浴室に向かっていったその物音を聞きつけたのか、勇一も起きてきた。
「…。ん?由香サン?彼は?」
「おはよう。今、シャワー浴びてる。勇一はその後浴びてね」
「おはよう。ん、了解。今から何するの?」
「お雑煮作る」
「お!嬉しいね。何風?」
「年末に取り寄せた牡蛎が残っているから、広島風にしようと思っています」
「素晴らしいですね」
「いえいえ…」
やっぱり勇一に喜んでもらえるのが、私は一番嬉しい。好きになった人って、どうしてもこう甘やかしたくなってしまうのだろう。まぁ、好きなんだから考えても仕方がない。私はコンビニで購入してきた水菜や人参などの野菜類と洗い始めた。
「ふぅあ…ぁ。ネム…」
「由香サン?起きましたか」
「んん…」
昨晩、大活躍をした由香がついに目を覚ました。由香の乱れ気味の髪の毛は線が細く、片手で掻き上げるとパラパラと1本づつ、こぼれ落ちるような妖艶さがある。
この人のビジュアルは本当に良い。これは同性である私でも本当に思う。
しかし、どこかに問題があるのだろうか、今ひとつ全体的に人生の日の目を浴びない。
「由香。おはよう。シャワー順番待ちだから待っててね」
「え?いいよ俺。先に由香さんシャワー浴びてください」
「ちょっと…。まって。何が起きているの?今。シャワー?」
由香は起きて10数秒…。自体を把握することはできない状態であることをすっかり忘れていた。事情を説明すると、由香は早速シャワールームに突進していった。
「ねぇ。私も入っていいかしらぁ?」
エンジンがかかった由香は、新年早々浴室でバカなことを言っている。今年も彼女には楽しませて貰えそうだ。