物語.46

暖房が効いているリビングは、正月早々なんとも言えないのんびり感が漂っている。勇一と梶原君はソファに腰掛け、ボケっと正月特番を見ては、お笑い芸人を批評していた。

一方、由香は逆上せ顔で外を見つめており、何かに想いを馳せている。何とも幸せな空気が漂っているものの、私はお雑煮作りに集中しなくてはならない。そのため、レシピを見ながら一生懸命広島風雑煮を作り始めた。

一応、年末にはこのおせちを作ろうともくろんでいたので、材料は揃っている。

ぶりの切り身に牡蛎、あとはお正月らしくカマボコに焼き穴子も用意した。しかも、塩にはこだわって、ちゃんとした“本物の塩”を自然食品の店で購入したのだ。

ちょっと怪しいが、“こだわりの瀬戸内海”と書いてある。間違いなく美味しいはずだ。一呼吸置き、私が水菜や人参を細かく切り始めると、梶原君がやってきた。

「凄いですね。僕の実家、関西なんですよ。広島風かなり嬉しいです!」

「そうなの?良かった」

すると遠くから勇一の声がする。

「じゃぁ、丸餅だ」

「そうなの?」

「そういえば、そうですね。関東みたいに四角くないんですよ」

「あっちゃ…。丸餅じゃないわ」

「全然大丈夫です!餅であれば何でも良いです!」

そんな風習があったとは盲点だった。瀬戸内海の塩まで購入したのに、肝心な所でミスをしてしまう…。やはり、島国日本と言えど知らないことが沢山ある。

「よいしょっ…っと。餅って焼いちゃった?」

「ううん。まだだよ」

私は首を横に振った。

「確か俺さ。七輪持ってるんだよね」

「そんなのあったけ?」

「去年、会社の飲み会で当ててさ。小さいんだけど、いつ使うんだよ…ってな感じで封印してたんだけど…」

「えぇ…知らないよ。そんなの」

「ちっとまって」

勇一はゴソゴソと戸棚を荒らし始めた。一緒に住んでからはキッチンは私のテリトリーになっている。そのため、元々勇一の部屋ではありながらも荒らされるのはイラッとする。

「あんまり、ゴチャゴチャさせないでよね」

「へいへい…あ、あった!」

勇一の手には未開封の小さな箱が乗っていた。確かに表紙には七輪が映っているが、行書対で“へいらっしゃい!居酒屋のんちゃん”と書かれている。

いつも、思うのだが製品化には数多くの大人が関わっているはずなのに、何故これがOKなのかが分からない。まぁ、風情が出るし、これに懲りず料理の幅が広がりそうなので少し嬉しくはなった。

「後は…、そうそう。墨もあるからね!早速焼こう」

先程まで、死んだ様に寝ていた人達とは思えないが、お雑煮作りがやけに楽しくなってきたので

つづく

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