アジアの遺跡に見る時空を超えたアート 34

十一重の塔が林立するバリ・ヒンドゥー教の総本山

~ インドネシア バリ島 ブサキ寺院 ~

日本の仏教界の総本山と言えば、高野山、比叡山があげられる。高野山は紀伊半島中部の標高約1000メートル前後の山の中に、平安時代の819(弘仁10)年頃から弘法大師空海が修行の場とし、真言宗の総本山となった。また、比叡山は琵琶湖を望む京都の鬼門の位置に聳える、標高約800メートル前後の山の中に開かれた天台宗の総本山だ。いずれの山にも、険しい山の中に夥しい数の伽藍が建ち並んでいる。

イスラム教徒の多いインドネシアにあって、バリ島は独自の文化をもち、ヒンドゥー教が深く信仰されている。その総本山がブサキ寺院だ。クルンクンの北、デンパサールから約60キロのところに聳える聖なる山、アグン山の中腹、標高950メートルの高地に、伽藍が建ち並んでいる。ブサキ寺院とは言っても一つの寺院ではなく、30余りの寺院の集合体だ。

ブサキの寺院群は、8世紀に建立されたと伝わっているが、創建当初の建物はほとんど残っていない。現在残る伽藍の大半は、11世紀に大改築されたものだ。シ・ワルマ・デワ王によって数々の寺院が建立された。16世紀のゲルゲル王朝時代には、王家の葬儀を行ったことで全島に知られるようになり、バリ島に1万を超える島々の寺院を統括する、バリ・ヒンドゥー教の総本山の役割を担うようになった。「ブサキ」は、現地の言葉で「無事」を意味し、全島民の信仰を集める。

土産物店が軒を連ねる急な石段を登って、寺院のエリアに近づくと、突然視界が開け、アグン山を背景とした黒い割門、チャンディー・ブンタールが聳え立つ。山全体が一つの寺院のように見え、聖域と呼ぶにふさわしい光景だ。玄武岩を用いて作られた割門は、シヴァ神を祀り、ブサキ寺院において中心的な寺院となっているプナタラン・アグン寺院への門だ。割門に向かう107段の石段の両側は、テラスのようになっており、ヒンドゥー教の神々の彫刻が築かれている。境内の祠には様々な供物が添えられ、三大神を祀る伽藍や大小、高低、様々な塔が立ち並ぶ。

境内に林立する塔は、日本ではあまり見かけることのない十一重の塔が多く、他にも九重の塔もある。細長くそそり立つ塔は樹木のように見えなくもない。広々とした境内は静寂に包まれ、落ち着いた佇まいとなっている。ヒンドゥー教の価値観についての知識はなくても、境内を歩いていると神聖な面持ちとなる。夕暮れ時には林立する塔が幻想的なシルエットを作り、荘厳な雰囲気が漂う。

プナタラン・アグン寺院の東南には、創造神ブラフマを祀るキドゥリン・クレテッ寺院、西北には繁栄神ヴィシュヌを祀るバトゥ・マデッ寺院が伽藍を構える。インドのヒンドゥー教では、シヴァ神、ブラフマ神、ヴィシュヌ神を三大神としているが、バリではさらにその上位に、最高神のサンヒャン・ウィディが厳存する。経文の一節にもサンヒャン・ウィディを讃える部分がある。

ブサキ寺院では、サカ暦によって行われる祭礼オダランが、一年に55回もある。210日の「ピヨダラン」、1年に1度の「プルナマ・カダサ」、5年に1度の「パンチャ・ワリクラマ」、100年に1度の「エカ・ダサ・ルードラ」などのオダランは盛大に行われ、全島から参詣客がブサキ寺院におしかける。

オダランの際には、寺全体が傘などでカラフルに彩られる。傘に使われる色は4種類あり、ヒンドゥー教の三大神のシンボルカラーとなっている。白色と黄色はシヴァ神、赤色はブラフマ神、黒色はヴィシュヌ神を象徴することがバリ・ヒンドゥー教の特徴となっている。

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