物語.49

一月もあっという間に終わろうとしている。

今年は例年に比べて寒いようで、売れ行きも上場だ。

「店長。俺、そろそろ就職活動に専念しようと思っているのですが…」

「東野君、じゃぁやめるってこと?」

「あ、いや…でも、マズいですよね」

「今の時期だと朝番が抜けるのは厳しいわね…」

「はい…分かってはいるんですが」

確かに東野君の将来を考えてみれば、ここにずっといさせる訳にもいかない。とはいえ、お店にとってみれば良い人材であることに間違いはない。

「でも、辞めたらお金は大丈夫なの?」

「一応2ヶ月くらいは生活できる貯金はあるんで、ここでスパートをかけないとな…と思いまして」

その時、内線が鳴った。

「はい、佐々木でございます」

「あ、佐々木さんですか?ちょっとお客様からのクレームがありまして…」

「は、はい。クレームですか」

どうも、今朝販売したおでんの詰め合わせに入っている“はんぺん”が腐っている、ということだった。

「お客様なのですが、非常にお怒りになっておりまして…。自宅まで来いと」

「自宅ですか…?それはいつでしょうか?」

「クレームですので、できれば早い方が」

「わかりました。お客様の電話番号をお願いします。こちらからお電話いたしますので」

これは東野君どころでは無い。このはんぺんが本当に腐っていたとして、お客様が食中毒にでもなったら営業停止だ。

「店長…。大丈夫ですか?」

「いや…。大丈夫じゃないわね…」

とにかくお客様へ連絡しよう。ここでまた電話が鳴った。こういった時の電話というのは心臓にとっても悪い。恥ずかしながら、ビクっと体が反応してしまう。

「お電話ありがとうございます。佐々木、玉川高島屋店、名取でございます」

「手塚です。お疲れ様」

手塚さんとは本社の連絡事務のようなおばさんだ。何故か、毎回社名を名乗って連絡しないのでアルバイトが電話に出ると困惑して困る。

「名取さん。明日の発注書まだ送ってないでしょう」

「え?あ、すみません!すぐ送ります」

ここで私は先程のクレームがふと頭によぎった。良く考えてみたら、お客様が本社に電話してもおかしくない。情報があっちこっちいってしまったら、ことが大きくなるだけだ。ここは正直に起こったことを言ってしまおう。

「すみません。あの…クレームが…」

説明後、電話の声がスイーツ部長に変わった。

「そうか。古いヤツじゃなかったんだろ?」

「はい。はんぺんは基本的に新しくしています」

「そうか…。取り敢えず、お客様に電話してその後こっちからも連絡いれる」

「あ…はい!わかりました」

何だかとにかく面倒なことになった。どうにか今日中に事が済めばいい。私はもう東野君の姿が目に入っていなかった。

つづく

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