物語.50

クレーム処理というのは本当に大変だ。こちらからは謝ることしかできない。しかし、今回は謝ってしまうとちょっと困る。

なんせ、はんぺんが腐っている、ということを認めてしまうことになると、これはこれで大騒動なのだ。

「申し訳ございません。ただ、こちらも毎日、徹底して賞味期限などを確認しておりますので…」

「でも、あんた。臭いものは臭いの。わかる?これを食べて食中毒にでもなったら、どう責任を取る気なの」

「も、申し訳ございません。新しい物とお取り替えいたします」

「そんなの当たり前でしょ?じゃぁ、なくて、どうするの?」

困った。どうするのってどうするんだろう。しかも、はんぺん1枚でここまで心臓をバクバクさせて人と会話しなくてはいけないなんて…今日はついてなさすぎる。

「では、そちら引き取らせて頂き、こちらで調査をいたしますので」

「調査?何を」「いえ、もしもおかしなことが分かったら、完全に手前どものミスでございますので、お客様としても結果がハッキリでた方が良いかと思いまして…」

「じゃぁ、取りにきてくれるのね?」

「あ、ハイ!伺います」

「じゃぁ、来て頂戴。早くね」

「かしこまりました。えぇと…ではお客様住所だけお聞かせ下さいませ」

よく分からない切り抜け方をしてしまった。そもそも調査って何だ?自分でも訳がわからないことを口走ってしまい正直マズかった。

何だか分からないが、これでもし毒性の菌でも発見してしまったら会社の存続自体が危ぶまれる…。

「店長!今からお客様のところい行くんですか?俺、行きましょうか?」

「東野君が行っても仕方ないでしょう。取り敢えず、ここをお願いね。後ちょっとで由香が来るから」

「は、はい。店長今日凄い寒いんで気をつけて下さい」

「了解…」

何とも気のない返事をしてしまった。とにかく、即効でお客様の所にいかなければならない。電話によると、最寄りの駅が矢野口らしい。

そもそも、南武線なんて乗らないし、全く地名もわからない。

ihoneの地図機能をフルに使うしかなさそうだ。調査の件はしっかりと本部に伝え、思いっきりあきれられた。しかし、このクレームを処理することで頭が一杯だったので、そんな印象など気にも留めず、心ここにあらずといった感じになっていた。

「長い1日になりそうね…ハァ…」

溜め息をついて運気を落とした後、私はお気に入りのコートを羽織り店を後にした。

つづく

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