食のグローバリゼーション 9

オリンピック開催によって街角のソウルのレストランから消えたメニュー

~ 韓国 ソウル ケジャンクク ~

現在、東京都は2020年の夏季オリンピックの招致に向けて積極的な活動を行っている。1964年に続いて2度目の開催を目指す。東京以外にも日本では過去に、1972年に札幌、1998年に長野で、2度の冬季オリンピックが開催されている。22年ぶりの日本でも開催が望まれるところだが、ライバルとなっているのが、イスタンブールとマドリードだ。3つの都市がオリンピック招致委員会にアピールを重ね、最終的には2013年9月7日にブエノスアイレスで決定される。

オリンピック開催による経済効果は大きい上に、開催地のグローバル化が促進される。開催期間中は、世界各国の人々が街に溢れ活気づくものだ。オリンピックをきっかけに、海外の食材が開催国にもたらされることもあるだろう。新しい食材が活用されるようになると、食のグローバリゼーションに発展する。海外の新しいメニューが加わると食生活は豊かになるが、逆に自国の伝統料理に思わぬ変化が生じることもあるようだ。

前回の東京オリンピックから6回後の1988年には、韓国のソウルでアジア地域では2度目となるオリンピックが開催された。ソウルは1981年に開催地が決定した後、大会実施に向けて準備が進められた。スタジアムや選手村の整備が着々と進む中で、準備状況を視察する欧米人がソウルを頻繁に訪れる。施設の完成度の確認が主な目的だが、レストランのメニューにもチェックが入った。

欧米人が注目したのは、犬の肉をメインの食材とした鍋料理「ケジャンクク」という韓国の料理だ。犬は世界各国でペットとして飼われている。家族同様の暮らしをする犬も数多くいる。そのペットの肉を食べるのは野蛮だという印象を与えてしまったのだ。

欧米人の非難を受けまいとして韓国当局が指導を行い、「ケジャンクク」は、表通りのレストランのメニューから一掃されてしまった。ところが、伝統料理である犬の鍋を残したいという韓国人の根強い思いから、料理の名前に工夫が凝らされた。そこで考え出されたのが、補身湯ポシンタンという料理名だ。表通りからは姿を消したメニューだが、裏通りや路地のレストランに、ポシンタンの新メニューが登場するようになった。他にも、栄養湯ヨンヤンタン、四節湯サチョルタンなどの別名で呼ばれることもある。

いずれの名前も健康食であることがイメージできるネーミングだ。犬の肉には蛋白質と不飽和脂肪酸が豊富に含まれ、栄養価が高く、文字通り補身用のスープとなっている。

犬の肉を一口サイズに裂いた犬の肉に、臭い消しのための唐辛子やニンニク、エゴマなどの香辛料に調味料を加え、長ネギ、セリ、ゴマの葉などの野菜とともにじっくりと煮込む。唐辛子ベースの辛目のスープの中の犬の肉は、脂身が少なくさっぱりしていて美味しい。

韓国人の伝統的食文化は、オリンピック開催による危機を乗り越えて現在も維持されている。韓国では一年で約200万頭の犬の肉を消費しているという調査結果もある。とは言っても、毎日のように食べるというわけではなく、一年で最も暑い時期の三伏のときの滋養食として食べる場合が多いようだ。夏ばて防止の健康食として位置づけられている。

日本人がソウルを訪れても簡単に味わえる料理ではなく、現地の人に聞いてポシンタンが味わえるレストランを探さざるをえない。日本で犬の肉を食べることはまずできないが、筑豊地域で食べられているという話を聞いたことがある。食材とする犬はペットにするような犬ではなく、オオカミに似た犬だそうだ。

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