5分程現実と感覚を乖離させていた私だったが、やっと今起こっていることに気付き、今からやってくるお客様のお叱りの言葉に震えた。
「あら?あなた?」
「え?あ、はい。もしかして…」
「そうよ。あの時にいたの男の人だったから分からなかったわ」
「本当に申し訳ございません…道にまで迷ってしまって…」
「もう、いいわ。一応、商品は持ってきたからお渡しするけど」
「も、申し訳ございません。こちら新しいものでございます。あと…返金」
「ありがとう。でも、しっかりしてね。まぁあなたも大変なのは分かるけど」
「いえ…」
「とにかく、こんな所まで来て頂いて悪かったわね。また、お店の方には行くわ」
「はい!お待ちしております」
「あと、朝レジをして頂いた男の子。あの子、暗いわよ。元気になさい」
「う…。申し訳ございません」
「あなた店長さんでしょう?しっかりしなきゃダメよ」
「はい。ありがとうございます。あの…こちらの商品は検査」
「いいわよ。どうせ食べてないし。ただ古かったのか分からないけど、しっかりとチェックして頂かないとね。こちらもお宅のが美味しいから、期待してる分、がっかりしてしまうから」
「はい!以後、徹底して気をつけますので!」
まさか、東野君のダメ出しをされるとは思わかったが、何か大丈夫な雰囲気でほっとした。
「あなたもしっかりしなきゃダメよ。まぁ、こちらもごめんなさいね、こんな所にまで引っぱりだしてしまって」
「いえ…ありがとうございます」
そのお客様は“また行くわ”という言葉を数回残して車で去って行った。あぁ…、全身の体が抜けてしまった。もう、今日はお店に戻る気力は残っていない。このまま直帰したいぐらいだ。
とにかく本社に連絡をして、お店にも連絡をしよう。頭が真っ白になった途端、お腹の虫が激しく鳴りはじめ、急に夕飯の事が頭に浮かんできた。
「今日は飲みに行こう…」
とにかく、今日は疲れた。疲れきってしまったんだ…。私は自分にこう言い聞かせてはスマートフォンで、近所の飲食店の口コミサイトを見まくっていた。