食のグローバリゼーション 12

空気中の乳酸菌によって発酵させた酸味の効いたキャベツの漬物

~ ドイツ料理 ザウアークラウト ~

日本人の洋食化が進む中、朝食にご飯を食べる人の割合はどれくらいだろうか。パンにコーヒーという人が、年々増加していることだろう。パンという食材が一般化する前の戦前であれば、ほとんどの日本人の朝食は、ご飯に味噌汁、漬物というのが一般的だった。

漬物は、食事の前に調理することもなく糠床から出すだけで食べることができる手軽な料理だ。糠床は各々の家庭によって異なり、そこにおふくろの味が凝縮されていた。長い年月で作り上げた糠床に、野菜を入れるだけで漬物ができあがる。糠床が完成すれば簡単レシピなのだが、糠床を作り上げるまでが大変だ。

数十年前であれば、どこの家庭にも台所の隅や、床下などに糠床が置かれていたものだが、今の日本の家庭で糠床を置いている家庭は多くはないだろう。日本の伝統的な家庭料理ではあっても、今や家庭で独自のものを作るのではなく、専門業者が大量生産したものをスーパーで買う時代になってしまった。

漬物は米を主食とする民族のものかと思いきや、パンを主食とするヨーロッパにも少し姿を変えて存在する。

ドイツは、周辺のフランスやイタリアなどの暖かくて食材に恵まれた国々とは異なり、風土的に食材が不足しがちだ。そのため保存食が発達した。ドイツ料理として先ず思い浮かぶソーセージ、ヴルストは、肉類を塩や香辛料で調味し湯煮や燻煙などの処理を施し、羊の腸などに詰めた保存食だ。これで、メインディッシュが一年を通して確保されるわけだが、肉ばかりを食べるわけにもいかない。栄養のバランスからも、ビタミン豊富な野菜が必要だ。

ドイツで最も食べられる野菜と言えば、じゃがいもなのだが、それに加えてよく目にするのがキャベツの漬物、ザウアークラウトだ。日本の漬物の作り方は、水の浸透圧を巧みに利用して野菜の中の水分を抜き、野菜の味を凝縮しながら糠床からの風味を添えるという手法をとる。これに対して、ザウアークラウトは、キャベツを乳酸発酵させた漬物だ。口に入れると独特の酸っぱさが口の中に広がるが、酢などの酸味料に漬け込むわけではない。その酸味は、空気中の乳酸菌などによって醗酵させることによって生まれる。

キャベツを繊切りにし、塩とジュニパー、ディルシード、キャラウェイシードなどの香辛料とともに混ぜ、かめや漬物樽に入れて重しをのせて常温で数日間、放置するだけでザウアークラウトが完成する。糠床に何日も寝かせる日本の漬物とは大違いだ。

日本では、あらゆる種類の野菜を漬物にするが、キャベツを漬物にする習慣はあまりない。どちらかと言えば、生でドレッシングをかけて食べることが多い。特にとんかつ屋などでは、メインディッシュが隠れそうになるくらいに山盛りされた繊切りキャベツを目にすることも珍しくない。

初めて酸味の効いたキャベツを口にすると、かなりの違和感が伴う。キャベツに期待されるシャキシャキした歯ごたえがなく、湿っぽさに腰が引けてしまうようだ。慣れないと皿に盛られたザウアークラウトを単独で平らげることは結構難しいのだが、場数を踏むに従って違和感が徐々に薄れノルマが達成できるようになる。

何度口にしても抵抗感が拭い去れない人でも、パンにウインナーを挟んだサンドイッチの中に添えられるザウアークラウトに違和感をもつ人は少ないようだ。サンドイッチに独特の風味を加えてくれるのだ。日本ではそれ程馴染みのないドイツ料理ではあるが、最近では輸入食材を扱うスーパーなどの商品棚には、瓶詰のザウアークラウトが並ぶようになっている。

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