食のグローバリゼーション 13

ボヘミアのビール醸造法がグローバル展開したピルスナー

~ チェコ プルゼニ ビール醸造博物館 1/2 ~

居酒屋に行くと椅子に座るなり、「とりあえずビール」と言ってしまうことが、しばしばある。街角で顔見知りの人に「こんにちは」と声をかけるのと同じような雰囲気で店の人に声をかける。「こんにちは」は単なる挨拶で、具体的な意味を伴うことはない。短い声掛けから日常会話が始まる。ところが、「とりあえずビール」と声をかけると、次の瞬間にはビールが目の前に登場する。挨拶のように使う言葉ではあっても、実際的な行動が伴ってくる。

職場やグループなどの集まりで、「とりあえずビール」と言えば、宴の始まりを意味する。ビールには様々な種類がありながら、銘柄を指定することなく店任せとする。同じサイズ、同じ色合いで、人数分のビアグラスがテーブルに並べられる。個人の主張を抑制する奥ゆかしい日本人の美徳と、職位や年齢の差とは無関係に同じものが並ぶ光景に平等感が漲る。みんなで同じものを飲むことに安心感が生まれ、集団に対する帰属意識が生じるのだ。準備が整うと、無礼講の宴の開始となるわけだ。慣用句として機能する言葉の中には、様々なニュアンスが隠れ、日本人の特徴が微妙に反映されていると言える。

全員でビアグラスを高く掲げることによって宴が始まる。ビールは食前に小さくなった胃袋を大きくする役割を果たす。アルコール度数は高くはないため、食事の前に酔い潰れることはない。食事が進むに従って、異なる種類の飲物に使命を譲っていく。ビールは最適の食前酒と言えるだろう。

ビールのルーツを探ると、メソポタミアやエジプトの四大文明期に遡ることができるが、19世紀の中頃にチェコのボヘミア地方で醸造技術が確立されたことで、爆発的な世界的需要が生まれた。ボヘミア地方の各都市では競うように醸造法が考案されたが、その代表がボヘミア地方西部の都市、プルゼニだ。ビールの代名詞ともなった「ピルスナー」は、この都市のドイツ語名に由来する。

プルゼニはチェコの首都、プラハから電車で約1時間西に向かった所に位置するチェコでは第4の都市だ。中心市街地の北部には、昔のビール醸造所を活用したビール醸造博物館があり、街の代表的産業であるビール製造に関する様々な展示解説がされている。実際に使用された施設や器具はとてもリアルで、世界に誇る産業の歴史や文化がひしひしと伝わってくる。

大麦を原材料とするビールの製造工程を大分すると、製麦工程、醸造工程、製品化工程に分けられる。畑から収穫された大麦を浸麦することから、ビール作りが始まる。麦粒を床のような槽に広げて水に浸し、たっぷりと水分を吸収させて発芽させる。発芽床に敷き詰められた大麦は、でんぷんやタンパク質を分解しアミラーゼを生成する。アミラーゼが充分生成したところで、乾燥し発芽を停める。低温乾燥すれば淡色麦芽、高温乾燥すれば濃色麦芽ができあがり、最終製品のビールの色合いを決める。

どちらの麦芽も次の工程で粉砕される。麦芽を細かく砕き、麦芽を糖化、発酵しやすくするのだ。現代であれば自働粉砕機によるアッという間の工程だが、機械化する前は人手で時間をかけて粉砕されていた。車輪のような粉砕機を前後に動かし、丹念にすりつぶした。粉砕した麦芽には水が加えられ、温度を注意深くコントロールしながら醸造される。麦芽に含まれるでんぷんやタンパク質を温水に溶け込ませ、麦芽自身の持つ酵素の力で糖化させると甘い麦汁が滲み出してくる。麦汁のもろみは、次の醸造工程を経て製品化工程に引き継がれ、完成品のビールができあがる。

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