物語.57

次の日、早速お店で東野君に話してみた。

「あのさ…。本当に辞める?もし辞めるのであれば、募集をかけたいと思ってるんだけど…」

「え?新しい人ですか?…まぁ、そうですよね。本当にすみません」

「もちろん知り合いなんていないわよね」

「はい…。この年でバイトはちょっと…」

まぁ、わかりきっていたことだし、別に確認することも無いのだが、東野君に気が変わったとでも言ってほしかったのかもしれない。

「何か、いい会社あったの?」

「はい。実は、格好悪いんですけど、友人のツテで紹介してもらった場所が1次面接で好感触で…是非、欲しい人材だから頑張ってほしいって」

「スゴいじゃん!格好なんて全然悪くないよ。むしろ羨ましいよ。何をしている会社なの?」

「一応、ルームアドバイザーです」

「へぇ…。何かスタイリッシュだね」

「そ、そうですかね…。まぁ、とにかく頑張ってみます!」

「うん!頑張ってね!」

東野君は輝いている。まぁ、私は輝いていない訳ではないんだけど…。何か動き出した人を見るって嬉しい。とにかく、今は東野君の門出を祝うだけだ。というかまだ決まっていないのだけれども…。

「じゃ、店長!お疲れ様です!2次頑張ります!」

「うん、お疲れ様。頑張ってね」

私もこの店に移ってきて長くはないのだけれども、多くの人達に助けられながらどうにか今までやってこれた。本当にこのことだけは感謝しなければいけないし、絶対に裏切れる思いでは無い。

東野君最初に出会った時は本当に大丈夫かな?というような男の子だったが、日に日に現実と戦ってどうにか新しい一歩を踏み出した。

店に残る身として、私も頑張って行こう、そう思えた時間だった。そんな余韻も束の間、由香が出勤してからは一気に現実に引き戻される。

「ルームアドバイザー?あぁ、要するに不動産屋だよ、それ。何か最近お米屋さんのオヤジさんがふざけて自分のことCEOとか言ってたけど、それと一緒じゃない?」

「何それ…。笑える」

「基本的に、不動産は誰でもやる気があれば入れるの。入ってからが地獄なんだからね」

「由香良く知ってるね」

「入って即効で辞めたからね」

まぁ、由香らしいワイルドなエピソードだ。しかし、今からこの地獄へわざわざ頭を下げて、入社しようとしている東野君が可哀想で仕方が無い。

まぁ、人によって合う合わないことがあるのだから、きっと大丈夫だろう。結局、由香とは求人の話をするのを忘れてしまい、そのまま閉店を迎えてしまった。

つづく

関連記事

アーカイブ

ページ上部へ戻る