物語.59

アルバイトを募集するにもお金がかかってしまう。本部に言わずにこんな求人を出してしまったら大目玉だ。

結局、どうすればいいか分からず途方にくれていると、統轄グループらしき黒スーツの女性が通りがかった。

「店長。お疲れ様です。どうですか?売り上げは」

「あ…。まぁまぁですかね。前年は今のところ超えてるんですが」

「それは良かったわ。でも店長。3月もまだまだ寒いみたいなんで、来月も行けそうですね」

「そうなんですよ…。でも、バイトが1人辞めちゃって。どうしようか悩んでるんですよね」

「そうなんですか?もし良かったら、お店に求人広告みたいなの張り出しても大丈夫ですよ」

「え?ここって、そんなことしてもオッケーなんですか?」

「ええ。大丈夫ですよ。結構、洋菓子フロアなんて個性的な求人を出していて、面白いんですから。あ、一応、するのであれば一声かけて頂けると嬉しいです」

「は、はい!ありがとうございます」

そうだったのか。これならいけそうだ。そもそも、店舗だけでの求人だと訴求力は弱いが、確実にここに通える人しかやってこない。交通費も浮くだろうし、本部にも伝えやすい。私の心が急に踊り出し始めた。

「お疲れ様です。あれ?…ニヤニヤして、また店長、おかしいことしちゃったんですか?」

「坂本さん!聞いて!」

再度、坂本さんに今聞かせてもらった朗報を伝えた。

「ええ!それって面白くないですか?っていうか…。そこだけ何でユルいんですかね」

「さ、さぁ、わからないけど…。とにかく面白く作らなきゃ!」

「任せます!」

「え…。私が作るの?みんなで…」

「何言ってるんですか?店長のお仕事ですよ。私、文才も絵心も無いですし、お任せします」

「由香…。あ、あれに頼んだらマズいことになるわね…」

「由香さんはヤバいですよ。絶対、シモネタとか書きますって」

「たしかに…。しかも、説明してもらわないとわからない絶妙な箇所にね」

「そうそう」

私たちは、接客そっちのけで笑っていたのだが、急にとなりから声がした。

「店長?うちのも作れる?」

「え?どういうことですか?」

隣のテナントの清水さんだ。どうやら、あちらでも長かった派遣のおばちゃんが辞めるらしい。

「もうね、人件費削減でマネキンさんは雇えないんだって。だからさ、自分たちで探しなさいって言われちゃって…」

「どこも不景気なのは分かりますが…。何か酷いですね」

「でしょ?私だっていつ首をきられるか分かったもんじゃないしね」

「はい…そういうことであれば、作ります」

「ありがと!」

なんだか、重い空気になってしまったのか、坂本さんは急に遠くを見つめ出した。とにかく、2店舗分を作ることになってしまったので、帰宅後勇一に相談しながら、デザインは決めて行こうと思う。

クオリティの高さで勝負していこう。私は久しぶりに創作意欲が湧てきたのか、普段の倍のスピードで閉店作業を終えた。

つづく

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