アルバイトを募集するにもお金がかかってしまう。本部に言わずにこんな求人を出してしまったら大目玉だ。
結局、どうすればいいか分からず途方にくれていると、統轄グループらしき黒スーツの女性が通りがかった。
「店長。お疲れ様です。どうですか?売り上げは」
「あ…。まぁまぁですかね。前年は今のところ超えてるんですが」
「それは良かったわ。でも店長。3月もまだまだ寒いみたいなんで、来月も行けそうですね」
「そうなんですよ…。でも、バイトが1人辞めちゃって。どうしようか悩んでるんですよね」
「そうなんですか?もし良かったら、お店に求人広告みたいなの張り出しても大丈夫ですよ」
「え?ここって、そんなことしてもオッケーなんですか?」
「ええ。大丈夫ですよ。結構、洋菓子フロアなんて個性的な求人を出していて、面白いんですから。あ、一応、するのであれば一声かけて頂けると嬉しいです」
「は、はい!ありがとうございます」
そうだったのか。これならいけそうだ。そもそも、店舗だけでの求人だと訴求力は弱いが、確実にここに通える人しかやってこない。交通費も浮くだろうし、本部にも伝えやすい。私の心が急に踊り出し始めた。
「お疲れ様です。あれ?…ニヤニヤして、また店長、おかしいことしちゃったんですか?」
「坂本さん!聞いて!」
再度、坂本さんに今聞かせてもらった朗報を伝えた。
「ええ!それって面白くないですか?っていうか…。そこだけ何でユルいんですかね」
「さ、さぁ、わからないけど…。とにかく面白く作らなきゃ!」
「任せます!」
「え…。私が作るの?みんなで…」
「何言ってるんですか?店長のお仕事ですよ。私、文才も絵心も無いですし、お任せします」
「由香…。あ、あれに頼んだらマズいことになるわね…」
「由香さんはヤバいですよ。絶対、シモネタとか書きますって」
「たしかに…。しかも、説明してもらわないとわからない絶妙な箇所にね」
「そうそう」
私たちは、接客そっちのけで笑っていたのだが、急にとなりから声がした。
「店長?うちのも作れる?」
「え?どういうことですか?」
隣のテナントの清水さんだ。どうやら、あちらでも長かった派遣のおばちゃんが辞めるらしい。
「もうね、人件費削減でマネキンさんは雇えないんだって。だからさ、自分たちで探しなさいって言われちゃって…」
「どこも不景気なのは分かりますが…。何か酷いですね」
「でしょ?私だっていつ首をきられるか分かったもんじゃないしね」
「はい…そういうことであれば、作ります」
「ありがと!」
なんだか、重い空気になってしまったのか、坂本さんは急に遠くを見つめ出した。とにかく、2店舗分を作ることになってしまったので、帰宅後勇一に相談しながら、デザインは決めて行こうと思う。
クオリティの高さで勝負していこう。私は久しぶりに創作意欲が湧てきたのか、普段の倍のスピードで閉店作業を終えた。