物語.61

撮影当日。取り敢えず勇一の友人であるモデル2人がお店にやってきた。

「どうも、はじめまして。大野です、あ、こっちが彼女のジュリアです」

「うわ…。さすがモデルさんですね…凄いスタイル」

今日の売り場は大分騒然としている。何と言っても、普段見かけないような生きるマネキンが2人もいるのだ。そもそも、こんな場所で撮影する自体が目立つ上に、美男美女とあれば、針のむしろだ。

「沙織…、これじゃちょっとやりづらいからさ、厨房からやって後は閉店後にしようよ」

由香の言葉は最もだった。

「あの…。大野サンすみません。ちょっと営業中はやっぱり目立ち過ぎで…。先に下で撮影して、残りはお店が終わった後でも大丈夫ですか…?」

「え?あぁ!全然大丈夫っすよ」

大野さんは大きく頷く。となりのジュリアもニコニコしている。しかし、可愛い。実際、モデルさんを初めて目の前にしたが、女子度に礼儀。ファッションまで全てが完璧だ。この時ほど三角巾を被っておでんを掻き回す自分が惨めになった時はない。

「私、おでん大好きなんです!すごいな…。おでんに毎日囲まれて夢みたい…」

「え?そう?あはは…これはこれで結構キツいんだけどね…」

やはり、感覚がズレているのだろう。これが羨ましいなんて…。アルバイトとかしたことないんだろうな。そんな事を考えながら、私は二人を厨房に案内した。

「いやぁ!こんな日がくるなんてマジで嬉しいですよ。店長!」

今日は東野君が最後まで残ってくれる。何と、大学生の頃に映画研究会に入部していたらしく、親にビデオカメラを買ってもらっていたそうだ。おかげで、今回の撮影もカメラマンとして名乗りをあげてくれ、フル装備で出勤してきた、という訳だ。

「じゃぁ、このエプロンと帽子を被って見て下さい」

全く、モデルという人間は何をしてもイケている。明らかにイケていないアイテムだって、まるでパリのメゾンが、敢えてこういうデザインしたような雰囲気を演出してしまう。

「揚物って…こんな感じに詰め込みます?」

「いいね!最高だよ!」

東野君のはりきりぶりは、正直気持ち悪かったが、2人はニコニコして付き合ってくれている。2人には段ボール1箱分の練り物をプレゼントしてあげたいくらい、申し訳ない気持ちで一杯だ。

「じゃぁ、ここはOKだから上に上がりましょう。大野さん達はあの…、閉店まで遊んでいて頂いて大丈夫ですよ」

「お疲れ様でした。了解です!じゃ、買い物でもしようか?」

「何が入っているのこのデパート?」

「まぁ、とにかく行こうよ」

きっとアパレルの人も今日程着せがいがあるお客はいなかっただろう。何か、私達の企画でショッピングセンターに刺激を与えることになってしまった。

やってしまった感もありながら、心では“ウチの店凄くないか?”という誇らしげな気持ちも交錯していた。

つづく

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