米田 知子 「暗(やみ)なきところで逢えれば」 東京都写真美術館で開催中

 

日本を代表する写真家の一人である米田知子の個展。
米田の作品は“記録”という写真の根本的な役割をベースにしながら、現実に見えているものだけではなく、そこにある記憶や歴史を背景に投影する。
今回の個展では、映像を含む新作シリーズと、近年の作品より、日本や世界の近代化における記憶や歴史をテーマにしたものを中心に、いま存在する風景や建物に、過去にどのような出来事が起こったのか。写真を見る側はその事実を知った途端に、見えているイメージが別のものに見えてくる錯覚を覚る。写真というメディアの持つ特質を最大限に生かしながら、鑑賞する側に見えているものの本質を、あらためて問いかけている。
初期作品の多くはヨーロッパを題材にしていましたが、近年は、台湾や韓国などアジアを捉えたもの、特に日本の近代化にかかわる地域をモチーフにした作品が増えている。20年以上海外で生活し、日本人としてのアイデンティティを強く意識している米田に、2011年の東日本大震災は大きな影響を与えました。今回の展覧会を通して、現在の米田の作品から何が見えているのか、見えていないものから何を受け取るべきなのかを考る。
本展初公開の新作、映像作品、近作の代表作品より約70点を紹介。
米田の作品にとって、キャプションは重要な要素です。米田はキャプションがイメージに与える影響を充分に理解し、必要不可欠であると認識しながらも、慎重に、そしてあくまで写真を補完するものであると捉えている。


【作品紹介】

「Japanese House」より 蒋介石政権時代の参謀総長であった王叔銘将軍の家(齊東街•台北)I 2010年

日本統治時代、蒋介石率いる国民党の支配を受けてきた台湾 の日本家屋を通じて、歴史の側面を垣間見るシリーズ。時の支配者は統治国のあらゆるところに、権力の象徴である建造物や記念碑を建てようとする。「家屋」という日常風景のなかにある私的空間も、歴史の重要な目撃者である。

「Scene」より 道 (サイパン島在留邦人玉砕があった崖に続く道) 2003年

歴史は、目に見えるモニュメントや建造物だけに現れるものではなく、青い空、青い海、木々や野原など無形にも存在する。本作は風景によって「見えるもの」と「見えないもの」の関係を問い直している。見過ごしてしまいそうな風景が、キャプションによってその歴史的事実を知った途端に、違った雰囲気となって見えてくる。ただ、米田は歴史的な事実を見過ごしてしまうことを責めているのではない。ただその史実の存在を明示するだけである。

「サハリン島」より 北緯50度、旧国境 2012年

日本人にとっては、間宮林蔵の樺太探検や間宮海峡の発見でなじんだ樺太島である。うち捨てられた工場や放棄された軍艦を眼にするとき、半世紀以上も前の日本領だった時代の歴史が、そしてそれ以前に培われていたであろう先住民の歴史が亡霊のように浮かび上がってくる。それぞれの風景にちりばめられた残骸や古い建物を見ることによって、この島の経て来た数奇な時間や歴史を思い出させる。

「積雲」より 平和記念日・広島 2011年

2011年3月11日、東日本大震災が起こった。我々は全知全能を駆使しても、抵抗出来ない大きな存在があることを知った。そして、あの日の災禍は単に自然の脅威という言葉では済まされないことがある。 「積雲」はラテン語で「小さく積み重なったもの」という意味がある。本作は、天皇制の象徴である菊花、靖国神社、平和記念公園、福島の原発事故まで、さまざまなイメージが重なることで3月11日という日に至った現実を思い出させる。それぞれの風景に潜んでいる歴史や過去や人々の生活までをも感じ取ることで初めて、作品は完成するのだろう。


時は我々が何もしなくても流れて行く。
ただじっとしていても、鼓動と血脈があるよう
ただ生きている。

空をみて、雲は早くも遅くも常に
形を変えて彼方へと消えていく。

何一つ、誰一人、
同じ場所(ところ)で、
同じ思いであるということは不可能だろう。

我々は目の前に写しだされた像を見ては
(無垢なき)観念 – を見いだす。

それは外から染められた
しかし内に秘めた 姿なき像である。

それは見えているのだが、
見えていないということと同じかもしれない。

見えないということは
見えているということに等しいかもしれない。

永遠ということは悲観的概念であり、
すべては永遠ではない – ことで
永遠を渇望する。

それに気づくのか、気がつかないか
‘過去を支配するものは 未来をも支配し
今を支配するものは 過去をも支配する’ ※

全ては断面的なことではなく
相反しながらも、継続的なことである。


米田 知子 ※George Orwell Nineteen Eighty-Four Penguin Books 版より 翻訳 米田知子


【開催概要】
展覧会名:米田知子 暗なきところで逢えれば
Yoneda Tomoko We shall meet in the place where there is no darkness
開催期間:2013年7月20日(土)~9月23日(月・祝)
会場:東京都写真美術館 2 階展示室 〒153-0062 東京都目黒区三田 1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
開館時間:10:00~18:00
観覧料:一般 700円 学生 600円 中高生・65 歳以上 500円

【関連イベント】
作家とゲストによる対談
7月20日(土) 15:00~16:30 ゲスト:片岡真実(森美術館 チーフ・キュレーター)
7月27日(土) 15:00~16:30 ゲスト:半藤一利(小説家)
担当学芸員によるフロアレクチャー 会期中の第1・3金曜日 14:00 より

米田知子(よねだ ともこ)
1991 年 ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(ロンドン)修士課程修了
2001 年 手探りのキッス 日本の現代写真」東京都写真美術館、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館
2005 年 個展「記憶と不確実さの彼方」資生堂ギャラリー/東京
2007 年 第52回ヴィネチア・ビエンナーレ(イタリア館およびアルセナーレ)
2008 年 個展「米田知子展―終わりは始まり」原美術館/東京、第13回アジアン・アート・ビエンナーレ・バングラデシュ 2008
2012 年 キエフ・ビエンナーレ

関連記事

アーカイブ

ページ上部へ戻る