食のグローバリゼーション 18

「串打ち三年、割き八年、焼き一生」の格言に追加したい「目利き一生」

~ 日本料理 うなぎの白焼き、蒲焼き ~

伝統工芸や伝統料理の職人は、長い期間をかけて職人技を習得する。「石の上にも3年」などのことわざもあるが、うなぎ職人の世界は3年どころではない。「串打ち三年、割き八年、焼き一生」の修行が結晶化することによって一人前の職人が誕生する。必要な技能を習得するために、3年、8年、一生の期間が必要と言われると、修行を初めて暖簾を出すまでは、気が遠くなる話となる。「焼き一生」では、死ぬまで修行の身ということになってしまう。

一尾のうなぎが料理されて食卓に出てくるまでには、想像を絶するような技能が隠されているのだ。同じ食材を同じ名前の料理に仕上げるにしても、地方や店によってプロセスが大きく異なる。その代表例は、職人がうなぎを手にした瞬間だ。一般的に、うなぎに包丁を入れて開く際に、関東は背開き、関西は腹開きにしている。「武士の町」江戸では「腹を切る」という表現が好まれず背開き、「商人の町」大阪では腹開きになったと言われる。

うなぎを裂く場所だけではなく、その際の道具も異なる。関東では柄つきの包丁を用いるのに対して、関西では柄のない包丁を使うことが多い。包丁は職人の命ともいえるものだ。一人一人最も使いやすいものを使うため、柄のありなしだけで違いを議論するのは乱暴な話だが、職人の数だけ包丁の種類があると言っても過言はなさそうだ。

裂きの8年に比べれば、技術習得が容易なのか、「串打ち三年」の修行は、関東では竹串、関西では金串を用いて行われる。「割き八年」と「串打ち三年」の間に、関東では頭落としの工程が加わる。そして、一生をかけて挑む「焼き一生」の修練が始まるわけだ。

蒲焼きの場合、関東では一旦素焼きをした後に、15分前後強火で蒸して余分な脂を落とし、タレを付けてから再び焼く。蒸すことにより仕上がりが柔らかくなり、脂が抜けるのでさっぱりとした味に仕上がると言う。これに対し関西では蒸さずに白焼きのままタレを付けて焼く。焼き方だけを比較すると、関東の方に軍配があがりそうだが、うなぎ職人の格言の中に抜け落ちているものがある。食材選びだ。関西では、蒸さずにおいしく焼き上がるうなぎを選ぶ目利きが必要となる。この目利きの習熟期間を邪推すると、一生となるのではないだろうか。

関東と関西での文化の違いが話題になることは多いが、うなぎ職人の世界においては、東西でこれ程までに違うのかと驚かされる。何から何まで、徹底的に違っている。全く違う方法で焼き上げられたうなぎの味は、東西でどれ程違うのだろうか。うなぎを食べて、開き方から包丁の種類までを見極めるには、一生の期間が必要ということになるだろう。ただ、職人技に思いを馳せながらうなぎを食べると、一味違った味わいを料理に添えてくれる。

最もシンプルなうなぎ料理は白焼きだ。混ぜ物なしでうなぎ本来の味わいが凝縮されている。うなぎを素焼きにしただけのものだから、色彩は素朴で素材そのもの味を楽しむこともできる。ただ、味が淡白なので、一工夫して味わう必要があるようだ。塩、もみじおろしポン酢、わさび醤油、ゆず胡椒、しょうが醤油などをほんの少しつけて食べることが多い。

素焼きではなく、タレを塗りながら焼けば蒲焼きだ。ほんのり甘いタレがうなぎに絡み、その味を引き立ててくれる。店ごとに秘伝のタレをもち、店が火事に遭ったときには、最初に持ち出さなければならないと言われる程の宝物だ。一尾のうなぎでも、様々な薬味を加え、食のバラエティーを豊かにしたいものだ。

 

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