物語.64

動画の編集にはてこずらなかった。とにかく、よく分からない動画を貼付けて行なう作業は楽しく、勇一の技と感性にも驚かされた。

「ここで…。そうだな、SEIYUみたいな雰囲気で求人募集出してみる?」

「いいわね!あぁ…ウケる」

とにかく、思いつく馬鹿なことばかりを試した。途中からは求人用の動画を作っていることを完全に忘れ、ただのお遊び状態になってしまっていた。

「これでいんじゃない?っていうかもう2時だよ。明日、早出でしょ」

「あ!本当だ、やば!お風呂めんどくさいな…」

「今日は離れて寝てくれよ」

「つまらんこと言うわね…」

「まぁ、俺あと仕上げだけやっとくからさ。沙織は寝てなよ」

「はーい」

1ヶ月に1度程、こういった風に朝から晩までフル活動している日がある。興奮して眠れないと思ったが、案外疲れ過ぎて寝てしまっていたようだ。

“ブ…ブブブブ…”朝方、おかしなリズムを刻むiphoneのアラームで目が覚めた。

「あれ…いつの間にこんなのになってるの…。まぁ、いいや。あぁ、ダルいな…」

つい何時間か前までは最高の気分で笑い転げていたのに、朝になった途端、地獄にたたき落とされた気分になってしまう。別に嫌なことがあるわけでも無いし、誰に怒られに行く訳でもない。

でも、何故か体は反応しない。恐らく企業の大社長や、世界的に有名なアーティストになっても、この朝の感覚は変わらないだろう。

やっぱり人間には休日は必要なのだ。と、いうか2日前に休みをとったばかりなのだが…。

「ん?ipad」

テーブルの上にはipadと、動画を再生する方法などが書かれたメモ書きがあった。

勇一の字は汚い。何ともミミズがのたうち回っているような、切ない字だ。しかし、恋いは盲目か、それすらも彼の個性として認められ、可愛いと思ってしまう。

支度を整えた私はバッグにipadを詰め、颯爽と職場へ向かって行った。

つづく

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