オリジナルこそ、家具職人の生命線

2年前ビックサイトで家具展示会があり、そこで出会った家具のフォルムの美しさに魅せられそのブースからしばらく動けなくなってしまった。そのブースを仕切る代表が伊藤 洋平(38歳)さん、現在八王子で家具のデザイン・製作を学べる八王子現代家具工芸学校を運営している。

立ち所に伊藤さんと親しくなり、家具についていろいろ話を伺ったのである。私自身、家具は子どもの頃からたまらなく好きで、そこそこ器用なため時間があると様々なものを作ってきた。だがその器用さが禍してか人生は失敗の連続ばかりだ。やはり工場で生産された均一家具とは違い、ひとつひとつの作品は目を見張るものばかりだった。

伊藤さんは、木製家具のデザイン・製作を学べる八王子現代家具工芸学校を2010年に立ち上げた。生徒は20~80代までプロ・アマを問わず、自らの手で家具を製作したい人たちが自由に学べる学校である。

英国で六年間、家具のデザインを学ぶ。高校卒業後、家具の道へ進んだ。

そのきっかけとなったのは、近所に住むカントリー家具を製作する職人だった。元々もの作りが好きな伊藤さんは、浪人中何度もその家具職人の工房へ通う内に、いつしかその職人技に見入ってしまったという。道具の種類から使い方まで家具職人から教えてもらったのは今でも忘れることのできない思い出だと伊藤さんは語る。

大学受験に失敗し、未来の目標も定まらない日々を過ごしている中で、家具職人がポツリと「景気が悪いからって仲間がみんな辞めていく、俺はどんな状況であってもこの仕事は辞めない。仕事がなければアルバイトでもなんでもやって凌いでいくさ、貫くことが大切なんだよな。でも、娘がバレリーナだから、この仕事も俺一代限りだ……」と、その時伊藤さんはその意味が分からず、ただ聞いていただけだった。

それからしばらくして家具職人は黄泉へ旅立ってしまった。

漠然と国内のデザインや製作の進路も考えてはいたが、学校で理論だけ学ぶのも、徒弟制度の下で技術だけ教えてもらうというのも、何か違う。「物作りの国ニッポン」と言われているのに、これだという所が見つからないでいた。

そんな矢先にイギリス人と結婚した母親の友人が訪ねてきて、両親は息子の将来を案じ友人に話したのだった。

その時母の友人から薦めてくれたのがRycotewood Collegeだった、両親は日頃より大学進学についてあれこれ口うるさく正直鬱陶しかった、それを避けるためかどうか分からないが、なぜかその時は首を縦に振ったのだった。海外へ行くのはいつかと思っていたが、まさか留学するとは予想だにしなかった。

そのイギリスのカレッジで基礎を二年、そして専門を二年、さらにウォルヴァーハンプトン大学でデザインを二年間学び当地での収穫は大きかったという。

「デザインは、私の存在そのものから生まれるものということを教えてもらいましたね。日本の文化の中で育ってきた、私の身体の中に息づいている感覚。オリジナルとは何か、それを突き詰めていく学習だった。技術はあとからしっかり学習すればいい」と。

深夜まで工房にこもって製作に取り組んでいると、煮詰まってくることがあるそうだ。そんな中、カレッジの先生が教えてくれた”君が自分で感じるオリジナルへ帰れ”という言葉で立ち直る。

もの作りが好きだからと言って職人になれるとは限らない、今思えば、当時浪人時代に足繁く通った家具職人との出会いがなければ、家具職人にはならなかっただろう。彼の”一代で終わり”という言葉が心に残った、その思いが家具職人という道へと誘い、学校まで作ることが出来たのも彼の存在があってのことだった。

今、地産地消を目的とした家具によるまちおこし、まち作りを目指 している、その出発点が現代家具工芸学校なのだ。

今年4月に89歳の新入生が入ってきた、木工は未経験。創業した織物メーカーの代表を昨年12月に退き、自由な時間が増えたのを機に、新たな挑戦を始めたというのだ。驚くばかりだ、この精神力たるもの、見習いたい。

 

 

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