食のグローバリゼーション 20

ショーケースに同じ姿勢で並ぶ生後間もない仔豚

~ スペイン料理 コチニージョ・アサード ~

日本は、四方を海に囲まれるばかりでなく、四季の季節の変化にも恵まれているため、バラエティーに富んだ食材が溢れている。数十年前であれば、八百屋、魚屋、肉屋などの小売店の店先に、種類ごとに分けられて並べられていた。肉屋の奥を覗けば、巨大な肉の塊が天井から吊るされている光景を見かけることもあった。血が滲み、骨の跡を残す肉塊には、独特の血生臭さが漂うこともあった。

それが、便利で効率的な生活スタイルが求められるに従って、小売店の数は減少し続けた。今では料理しやすい形に切られたパックの食材を一軒のスーパーで、一まとめにして買い求めることが当たり前のことのようになっている。肉類は均一にカットされ、元々の姿をイメージすることはできない。パックの中の肉は、料理用の材料として取扱われる。かろうじて、生前の姿を残した形で並ぶのは魚介類のみとなってしまった。

スペインのバルセロナの商店街を歩いていたときに、豚が同じ姿勢で綺麗に並べられているのを見かけた。ショーケースに乗っかるサイズだから体の小さな仔豚だ。薄紅色の皮膚の色合いにはまだ生気が感じられ、血管の中には血液が通っているのではないかと思わせる。表面を綺麗に処理された皮膚にはつやが残り、弾力性すら感じさせる。ショーケースから飛び下りて、走り回ることができそうだ。微動だにしない子豚たちは、きっと生命を失ってから、それ程長い時間は経過していないだろう。数時間前には母豚の乳を吸っていた仔豚だが、これからレストランや家庭に持ち帰られ、丸焼きにされることになるのだ。

スペイン、イベリア半島西部のセゴヴィアには、古くから仔豚を丸焼きにしたコチニージョ・アサードと呼ばれる名物料理が伝わる。生後45日以内で3キロから4キロ程の体重になった仔豚を、釜戸の中でじっくりと丸焼きにする。まだ母豚の乳しか口にしたことのない仔豚を、生きていたときの姿のまま焼くというのは残酷な気がする。でも、産まれて間もない仔豚の肉は、脂身も少なく柔らかい。美味しいものを食べたいという人間の欲求は、残酷さを超越させてしまうのだ。

丸焼きにされた仔豚は、頭の脳みそから鼻、耳、腹、足、蹄まで、丸ごと一匹食べられる。一匹の仔豚の丸焼きは、8枚の皿に切り分けられるのが一般的だ。レストランなどで、お尻の部分が当たった人は、尻尾つきのスペシャルメニューとなる。部位によって味わいは異なるだろうが、仔豚の尻尾の味を味わったことがある人はそれ程多くはいないだろう。豚肉というと白い脂身がどうしてもイメージされるが、仔豚は大人の豚のような脂っこさはなく、さっぱりとしたジューシーな味わいとなる。中でもキツネ色に焼き上がった皮の部分は、パリッとした食感がたまらないのだ。

セゴヴィアでは丸焼きの仔豚を切り分ける際に、伝統的に用いられているのは陶器のお皿だ。仔豚の肉が柔らかいので、ナイフのような鋭利な刃物を使う必要がないのだ。余計なものを使うことなく、皿で切って、皿に盛りつけて食べるのは合理的と言えるかもしれない。

コチニージョ・アサードは元々、セゴヴィア地方の料理だったが、今ではスペインの全土で食べられる料理となっている。マドリードやバルセロナの商店街などには、コチニージョ・アサード用の仔豚をよく見かける。商標のようなスタンプには何が書かれているのだろうか。恐らく産地や生後の期間などが書かれているのだろう。スペインの家庭でのホームパーティーなどでは、格好のメインディッシュとなることだろう。

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