物語.65

朝からipadの動画で騒いでいるのは由香だった。

そもそも、昨日撮影し、なんと翌日には編集ができてしまうなんて、かなりフットワークの軽い制作チームだかわからない。

「やば!これ超面白いじゃん。これ流してたら、私絶対に仕事できなくなるわ」

「いや、それ分かるけどしっかり接客はしてよね」

動画は地下で揚物を揚げた後、上の店舗で格好良く販売するだけのものだ。

しかし、その所作一つ一つに“情熱”“愛情”“夢への架け橋”など、静止画と供に暗転し出て来るものだから、何だか良くわからないが面白い。取り敢えず、良く見える場所にスタンバイをして開店準備にいそしんだ。

「あら。これ何?アルバイトを募集してるのかしら?」

「は、はい。すみませんおかしいので…。一応、募集をさせて頂いてるので、知り合いの方がいたら是非…」

「わかったわ。お声をかけてみるわ」

土地柄か、お客様には上品な人が多いが、どうやら洒落は通じるらしい。日中の場合は基本主婦層がメインなので、当然アルバイトなどこんな場所でするはずはない。

そのためか、取り敢えず草の根作戦として、知り合いを紹介してもらうことにした。遅番のオバちゃんもこの画像には笑いを堪え、私達の労を労ってくれた。

しかし、このipad求人を設置してから1週間。誰からも連絡が無いまま過ぎていた。求人を出せるのは10日間。

これを過ぎると、何故かまた届けを出さなくてはいけず、色々な手続きがあって面倒くさい。それに、やはり自分たちがこの動画に飽きてきてしまっており、時折、電池切れに気付かず真っ黒の状態で半日営業している時もあった程だ。

「うぅん…。やっぱりダメかな…参ったな」

「何かすみません…。僕のために」

「大丈夫。いずれアルバイトの人は辞めるんだから、常に募集はかけとくべきだったんだよね。ごめんね、逆に気を遣わせちゃって」

「い、いえ!良いんですよ…。誰か良い人こないですかね…」

二人とも、その後は沈黙が続き、結果的に閉店の10分前になってしまった。

「あの…すみません」

「はい?いらっしゃいませ」

「アルバイトってまだ募集してるんすか?」

つづく

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