アジアの遺跡に見る時空を超えたアート 44

スルタンが覗き窓越しに、水に戯れる宮廷の女性達を眺めた水の宮殿

~ インドネシア ジョグジャカルタ タマン・サリ ~

夏休みの子ども達の最大の娯楽といえば、海水浴、プール遊びだろう。厳しい陽射しが照り付けるグランドを走り回るのは、元気な子どもでもさすがに疲れる。海やプールの水に浸かれば、上昇する体温を抑えるばかりでなく、水の中では陸上では味わえない様々な楽しみに満ち溢れる。夏休みの期間中は、日本全国の海水浴場やプールは、連日子ども達の歓声がこだましている。

四季の気候の差がはっきりした温帯に位置する日本であれば、水遊びをするのは真夏の一時期に限られている。東南アジアの熱帯の諸国は一年中、灼熱の太陽が大地に降り注ぐ。子どもばかりでなく、大人も一年中、水が恋人のように思えてならないのではないだろうか。

1757年、インドネシアのジャワ島中部のジョグジャカルタに、当時この地域を治めていたマタラム王国のスルタン、ハメンクブウォノ1世がタマン・サリを建造した。敷地内に3つのプールを備えた水の宮殿だ。

3つのプールの内、1つ目はスルタンの子ども達のため、2つ目は4人の正妻や王宮に仕える女性達のため、3つ目はスルタンのプライベートのためのものだった。プールの中に入れば、物理的に水で体を冷やすことができるが、静かで穏やかな水面を眺めているだけでも、雰囲気的に涼しさを感じることができるものだ。熱帯において、水はとても貴重なものだったと言えるだろう。

プールを囲むように石造りの白壁に灰色の屋根が施された建物が建っている。色彩的にも幾何学的にも簡素なイメージを感じさせる構造だ。その一部に3階建ての塔が建っており、壁の中央に覗き窓が施されている。スルタンは3階の覗き窓からこっそりと、2つ目のプールを眺めたと言う。プールの中に気に入った女性を見つければ、その女性めがけて花束を投げ込むのだ。広いプールの中にいる一人の女性めがけて花束を投げて、意中の人のところに花束は間違いなく届けられるものだろうか。スルタンはプロ野球の投手並のコントロールを持っていないといけないということになる。プールで花束を受け取った女性は、その夜スルタンと一夜を共にするというストーリーだ。

男性が女性に向かって花束を投げるという行為は、ロマンチックで微笑ましく思えるが、身分の差を考えるとそうは言ってはおれない。当時はプールを中心に艶めかしく、怪しい雰囲気が漂っていたのかもしれない。一人の男性の立場からすると、羨ましく思えてきてしまう。

タマン・サリは、ジョグジャカルタ市街地の南部に建つ王宮から西へ約200メートルのところに位置する。スルタンが政治的な仕事を行う合間の息抜きの離宮として機能したのだろう。プールを囲む建物の中には、会議室のような大きな部屋はなく、ゆっくりと時間を過ごすための小部屋しかない。建物を吹き抜ける風は、プールの水に冷やされ、すがすがしいものであったに違いない。

スルタンの離宮であったタマン・サリからは、長さ5キロにわたって2層からなる地下通路が張り巡らされていた。国事を離れ休息をとっているときでも、スルタンは常に身の危険に備えなければならないということだろう。有事が長い期間にわたって続くことを想定したのか、地下通路にはイスラム教に基づく礼拝室や、祈りを捧げる前に身を清める湧水の泉が設置されている。スルタンは政治的なリーダーであるばかりでなく、イスラム教のリーダーでもあるのだ。離宮のプールの地下には、妖艶な香りとは相反する政治的、宗教的な備えが完備されているというわけだ。

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