アジアの遺跡に見る時空を超えたアート 45

 

親しみに満ち溢れ、エメラルドグリーンに輝く仏陀

~ タイ チェンマイ ワット・プラ・タート・ドイ・ステープ ~

日本は四方を海に囲まれる島国だ。北海道から九州に続く海岸線からは、太平洋や日本海の青い海が広がる。ところが、国土の南端に位置する沖縄の島々から見える海は、エメラルドグリーンに輝いている。海底の白砂や珊瑚が、他の地域の海とは異なる色彩を作り上げている。透明度の高い海は、マリンスポーツをする人々の血を熱くする。

色彩の語源となっているエメラルドは、宝石としても高い人気をもっている。明るい緑色の石が、様々なアクセサリーに加工される。装身具として利用される色彩は、仏教の世界にも活用されることがある。タイのバンコクに建つワット・プラケーオにはエメラルド仏陀が安置されている、タイの寺院の仏像は黄金色に輝くものが多い中、エメラルドグリーンの仏像は極めて珍しく、高い人気をもっている。エメラルド仏陀は、世界に唯一のものと思っていたのだが、タイ北部の古都、チェンマイのワット・プラ・タート・ドイ・ステープを訪れたときに、鮮やかな緑色の仏像を見かけた。

ワット・プラ・タート・ドイ・ステープは、チェンマイの郊外に聳える標高1676メートルのステープ山の山頂付近、1080メートルの位置にある。13世紀末からタイ北部を領土として統治したラーンナータイ王朝の6代目の王、クーナー王が1383年に建立した。

神聖な仏陀の遺骨を受け取ったクーナー王は、遺骨を白い象に乗せて自由に歩かせたところ、象はステープ山に登りそこで息絶えた。その場所を聖地として、クーナー王が寺院を建立したという伝説が伝わる。

ステープ山の麓に並ぶ2匹の蛇神、ナークが山肌を切り開いて築かれた寺院へと誘う。長い階段状の参道は、創建当時には306段にも及ぶ石段が組まれていた。左右の両側に緩やかな曲線を描きながら、うねる蛇腹に従って石段を登りつめると、神聖な境内に足を踏み入れることができる。

土足が禁じられている回廊に囲まれる中央には、高さ22メートルで金色に輝くチェーディー、仏塔が天空に向かって聳え建つ。傍らに立つ黄金の傘も極めて印象的だ。参詣に訪れた人々は、チェーディーに沿って回廊を3周した後、塔に向かって祈りを捧げる。チェーディーの中には、イム陀の遺骨が納められていると伝わる。ワット・プラ・タート・ドイ・ステープは建立以来、チェンマイに暮らす人々にとって最大の聖地となってきたのだ。

寺院は小高い山の中にあるため、眼下には古都、チェンマイの市街地の眺望が広がる。参詣の合間に、のんびりと絶景を楽しむことができる。堀に囲まれた旧市街の中には、ラーンナータイ王朝時代の城壁や城門が残され、風景の中にタイの北部で培われた歴史と伝統が漲っている。

古都の光景を背景とする寺院の敷地内には夥しい数の仏像が並ぶ。立像、座像の他に、寝姿の仏像も見受けられる。手の形や顔の表情も変化に富み、仏陀の様々な姿を表現している。どの仏像も黄金色で包まれ、神々しい光を放っている。その中に1体、エメラルドグリーンの色彩をもつ仏像があった。全身が鮮やかな色彩で包まれている。

バンコクのワット・プラケーオに安置されるエメラルド仏陀を間近で見ることは難しく、遠くから仰ぎ見ることになるが、ワット・プラ・タート・ドイ・ステープでは仏像に触れることさえできる。黄金色に光り輝く仏陀には、気高さを感じるものだが、緑色の仏陀には暖かな色調からか親しみが満ち溢れているようだ。ユニークな色彩の仏像に向かって合掌すれば、より大きなご利益が期待できそうだ。

関連記事

アーカイブ

ページ上部へ戻る