物語.69

中川さんが働き出してから1週間。

まだ東野君は半月在籍してくれるので、むしろ暇な時間が増えてしまった程だ。

「中川さん…すみません。折角来てくれたのに、もう上がりだなんて」

「いやいいんですよ。3時間も働けるなら本当に助かるんですよ」

「そういって頂くと物凄く楽なんですが…。徐々に伸ばしてく感じでいきましょう」

「お店が忙しくないから大丈夫ですよ。ははは…」

しまった…。またやってしまった。こういった対応は本当に苦手な分野だ。気まずさに東野君も気が付いたのか、目を細めて私を見つめている。

「そ、そういえばなんですが、中川さんのお店ってなんて名前なんですか」

「そういえば教えていなかったですね…。ええと…トラットリアガワナカです」

東野君が笑いを堪えている。まさか、ガワナカなんて業界用語みたいな店名…。私もかなり苦しくなってきたが話題を変えた。

「そ、そういえば中川さんてテレビはよく見られるんですか?」

「そうですね。世界不思議発見は良くみますよ」

「あ、あれいいですよね~。私もミステリーハンターになってみたかったんですよ」

東野君が近づいてきて耳元で囁いた。

「土曜の21時に見れるなんて…店としてまずいっすよ」

中川さんはどうしてこんなに私をいじめるのだろうか?むしろM体質なのだろうか。苦笑いしかできない私を中川さんは、横目で寂しそうに見ていた。

「ふぅ…。何か嫌だな。帰ってネットで評判でも見てみよう…」

「辞めた方が言いような気がしますけど…」

東野君の言うことうを守れば良かったと、後々後悔するすることになるとは、この時は全く予期していなかった…。

つづく

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