食のグローバリゼーション 29

肉片をハンマーで叩いて平たく、薄くして、からっと揚げた仔牛のヒレカツ

~ オーストリア料理 シュニッツェル ~

海外に出かけるとその国の料理が口に合わず、食事に苦労することがしばしばある。今でこそドイツのレストランには各種のヘルシー料理がメニューに並ぶようになってきたが、20年以上前のドイツでは、全ての料理が塩っ辛いか、脂っこいかで、口にすることができなかった。海外に行って、その土地の料理が口に合わなかった場合の常套手段は、中国料理店に逃げ込むことだ。中国料理店は世界中のどこにでもあり、現地料理に逆らいながらも、空腹を満たすことができる。

でも、文化の大きく異なるヨーロッパにいるのに、日本で食べ慣れている中国料理を食べるのは口惜しいものだ。そこで、お隣の国オーストリアの代表料理、シュニッツェルをメニューとするレストランをよく探したものだ。シュニッツェルは、ウィーンで始まった料理だが国境を越え、同じ民族が暮らすドイツのレストランのメニューにも並ぶようになった。日本では、豚カツのような料理と紹介されることもあるが少し趣が異なる。

シュニッツェルは、一言で言うと仔牛のカツレツだ。先ず、仔牛の腿肉か肩肉を薄く切り、その肉片をミートハンマーで叩いてさらに薄くする。筋肉の繊維の向きに沿って何度も叩くと、肉片はどんどん平たくなる。肉片というよりは肉のシートのような状態になる。仔牛の肉なので、きっと柔らかいからだろう。調理場から聞こえてくるハンマーの音は、とても軽快でリズミカルだ。平らになった肉のシートに小麦粉をたっぷりとつけ、溶き卵に潜らせてからパン粉をつける。これをやや多めのバターかラードで揚げ焼きすれば、シュニッツェルができ上がる。日本の豚カツのような多量の油で揚げるディープフライではない。

オーストリアは、ハプスブルク帝国の繁栄によって、周辺諸国から様々な料理がもたらされたために、バラエティー豊富な料理が溢れている。シュニッツェルも外国の料理をヒントとして、オーストリアで発展させたものだ。19世紀にラデツキー将軍が、イタリアからコストレッタ・アッラ・ミラネーゼをウィーンに持ち帰ったのが起源と伝わっている。

レストランで出されるシュニッツェルは、一枚一枚がかなり大きい。自分の顔よりもはるかに大きくて、皿から肉がはみ出していることも珍しくはない。上から眺めると迫力あるボリューム感をもっているが、肉厚が薄いため食べる肉量はそれ程多いものではない。ナイフとフォークで簡単に切ることができ、食べやすい。仔牛の肉を使っているせいか、脂身もほとんどなく、肉質はとても柔らかい。衣のパン粉が細かく、からりと揚がっていて香ばしい。熱々の衣にレモンをかけると風味が増す。

肉厚に比べて表面積が広いため、卵が肉片に絡み、カツでありながら卵のまろやかな味わいが肉片を包んでいる。料理の色合いも、卵焼きのような色になっている。これには、もう一つの食にまつわる文化が反映されている。

中世のイタリアでは金が心臓によい薬になると言われていた。宮廷で貴族たちは、食物を金箔で包んで食べることが流行したと言う。さすがにこのような浪費的な習慣は廃り、金箔に変わって、視覚的にも近い卵とパン粉の衣で代用されるようになった。このレシピが、オーストリアのシュニッツェルにも活かされるようになったのだ。

ドイツで救世主の役割を果たした料理は、オーストリアに行くと最初に食べたくなる料理だ。最近では、同じ方法で豚肉や、鶏肉が料理されるばかりでなく、七面鳥のシュニッツェルなどという変わり種も登場しているようだ。

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