食のグローバリゼーション 36

1000種類を超える銘柄が味のハーモニーを奏でるビール大国ベルギー

~ ベルギー ビール 1 ~

一日の仕事を終え自宅に帰り、一風呂浴びた後に飲むビールの味は格別だ。爽快な喉越しが、一日の疲れを吹き飛ばしてくれる。タオルを片手に冷蔵庫のドアを開けてしまうことも珍しくないだろう。冷蔵庫に保管されるビールの銘柄は、家庭によってほとんど決まっている。近年、ビールの種類が大幅に増えたと言っても、家庭の冷蔵庫に保管されるビールの種類は片手で充分足りるだろう。

ベルギーには、1000種類を超えるビールが作られていると言われている。ベルギーは、ヨーロッパの中心に位置する小国で、人口約1千万人、面積約3万平方キロの規模だ。日本と比較すると、人口、面積ともに12分の1程度だ。にもかかわらず、ビールの種類は10倍を超えるのだから驚きだ。ビール醸造所の数も500を超え、ベルギーは世界屈指のビール大国と呼ぶことができる。

国内のどの都市に行っても、市街地に数多くのビア・カフェが点在している。人口比では340人に1店舗のビア・カフェを備える充実ぶりだ。軽いスナックをつまみながら、のんびりとビールのグラスを傾けることができる。カフェのカウンターには、あらゆる種類のビールがずらりと並んでいる。その光景には圧倒されてしまう。

スーパーマーケットのショーケースだって、ビア・カフェの棚に引けを取らない。大きな棚に数え切れないビールの銘柄が整然と並んでいる。この中から一本を選ぼうとすると、途方に暮れてしまう。ところが、ベルギーの人々は迷うことなく、要領よく銘柄を選んでいる。同じ銘柄を飲み続ける人もいれば、その日の気分や気温、気候に合わせて違う銘柄を選ぶ人もいることだろう。アルコール飲料であってもビールが、生活の中に深く定着しているのだ。

ベルギーでビールが製造され始めたのは中世のことだ。ヨーロッパの大国の覇権争いに巻き込まれ戦乱が続く中、ベルギー国内は飢餓や疫病に悩まされていた。痛んだ飲物を口にすることも珍しくなかった農民達に、自然発酵による自家製ビールの製造を教えたのは修道院の僧だった。ビールは果汁飲料などと違って保存が効くのだ。ブリュッセル近郊の空気中にはマイクロフローラと呼ばれる微生物が浮遊し、ビールの自然発酵をするには好い環境にあったのだ。ジャン1世がビール醸造を奨励し、ビールが各地に広まっていった。

緯度が高く気候的に良質なブドウが育つ環境ではなかったため、隣国のフランスやドイツのようにワインを醸造することができなかったことも、ベルギーのビール製造を後押しすることになった。ところが、ビール醸造には欠かせないホップは、チェコやドイツのような品質のものを生産ができなかった。そこで、製造方法に様々な工夫が凝らされた。主流であった自然醗酵のランビックビールに加えて、上面発酵によるエールビールの醸造が始まり、材料の選択の幅が飛躍的に拡大したのだ。

ハーブや香辛料、果汁をビール醸造に使用し、新種が次々に誕生するようになった。ハーブや香辛料、果汁をクロスセレクトすれば、無数のビールができあがるわけだ。冷やして飲むのが一般常識のビールだが、室温や少し温めた方が味わい深くなるビールまで誕生する。

材料と醸造方法を絶妙のハーモニーで組み合わせれば、味の芸術品が完成するというわけだ。ベルギーではワインを楽しむかのようにビールが愛飲されている。旅行などの短期間のベルギー滞在では、全てのビールの味に触れることは不可能だ。時間と身体が許す限りのビールを味わうには、正露丸を手放すことができなくなる。

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