100年先を見据える、ガラスCD

ガラスCDと言うのを聞いたことがあるだろうか? 正式名称はExtreme Hard Glass CD、2006年に登場した。これを一度聴いたら圧倒されるだろう、臨場感と良い、音圧しかり、情報量の点でも従来の音楽CDポリカーボネート(プラスチック素材)とは群を抜く音質なのだ。
陋屋で仕事する身にとって音楽は欠かせない、部屋にいる限り音楽は掛かっている。ジャズ、クラシック、ラウンジ、アンビエント等々、その日の気分に合わせて聴いている、また外出の際も携帯音楽プレーヤーは必需品である。

このガラスCDを聴いたのは、すみだトリフォニーホールのホワイエで聴いたと記憶している。このガラスCDはN&Fと言うレーベルが開発したもので、チェリスト奏者の青木十良さんのCDもここからリリースされている。
N&Fとは10程前に、青木十良さんの企画が縁で知り合うことが出来たレーベルである。N&Fと知り合わなければガラスCDも青木十良さんも知ることはなかっただろう。西脇義訓(録音プロデューサー)さんと福井末憲(バランス・エンジニア)さんお二方で会社を2001年に興した。共に日本フォノグラム(現・ユニバーサルミュージック)出身で、N&Fは”世界を結ぶ芸術の音”をコンセプトに世界に名だたるアーティストの録音やコンサートに精力的に取り組んでいるレーベルだ。
さて、そのガラスCDはポリカーボネートの代わりにガラスを用い、従来のCD以上の高音質を引き出すことを狙ったものだ。高音質と聞くと浮かぶのはSACD(スーパーオーディオCD)だ、SACDを再生するには専用の再生機が必要になるが、ガラスCDはCDの規格を遵守している正真正銘のCDなのだ。だから普通のCDラジカセでも当然再生できるし、リーズナブルなオーディオでも「音の差」をはっきりと聴きわけることができる。ではガラスCDの優位性とは何か、先ず「非常に安定している」ということ。多少気温の高いところに放置しようが、湿度の高いところに置いても、変形しない。一方のポリカーボネートCDは湿度には比較的強いが、熱に弱いのである。従って、保管状態によっては微妙に反ることがある。反ったポリカーボネートCDをプレーヤーで再生すると、ピックアップにサーボ機構(自動制御)が働き、読み取りエラーの発生を抑えようとする。普通に聴く分にはそれほど問題ではないが、ことオーディオ・ファンとなればこれは大きな問題となる。機械に負担が掛かり、過電流による高周波ノイズが混じり、それが音質を落としてしまうのだ。ガラスはポリカーボネートに比べると重いため、再生時の回転が安定する、つまり、常に安定した音楽データの読み取りが可能と言うことになる。
バランス・エンジニアの福井さんによると、ガラスCDを作るきっかけとなったのは、ポリカーボネートをプレスする会社によって音にバラツキがあったことだった。あるところは高温の伸びは良いが低温が物足りない、また他ではその逆、さらには紗がかったという具合に音に統一感がなかったと言う。クラシックを中心に仕事をしていた福井さんは、エンジニアとして問題解決のために糸口を探し始めた。クラシックのアルバムは全世界で発売をする、日本と欧米で生産したCDと音が違っていたらそれこそ問題であり、アーティストからのクレームがあったりしたら大変なことになる。そのような背景の下で世界統一基準となるクオリティの高いCDの研究が始まったのだという、その研究は何年も続き遅々として進まない日が続いた。
そして、ようやく念願のCDが出来上がった、福井さんがガラスCD製作を思い立ってから約20年の歳月が経ったのである。その第一弾は「衝撃のfine NFクリスタル・サウンズ」、第二弾はマエストロ・カラヤン生誕100年記念盤……ブルックナー:交響曲第7番 ホ長調、マルタ・アルゲリッチ/シューマンとショパンのピアノ協奏曲と続いていく。
福井さんは言う「ガラスCDは、ディスク文化を未来に継承のため生まれてきたメディアである、過去の遺産であるクラシックレコード文化存続のためにこれからもさらなる研究に勤しまなければ」と。
ガラスCDは高額である、しかしその作品の一つひとつが歴史を越え永久不変に鮮度の高い再生音を再現するのであれば、個人として、と言うことよりも国家の財産となるべくメディアの誕生と言って良いだろう。
カラヤンのガラスCD成功により、レコード各社がこぞってガラスCDの企画・発売を始めた、しかしここで福井さんは釘を刺す。「当初から何でもガラスCDにすれば良い訳ではなく、マスター音源の選択には十分な配慮が必要。ガラスCDはマスターの音質と音楽性を洗いざらいさらけ出すからです。マスタリングにも細心の注意が必要です。作品の選択も含め、やり方を一歩間違えると不本意なガラスCDができてしまいます」
世界遺産とも言えるアーティストたちが遺した作品をガラスCDに封じ込む、これを未来に託し、それは世界にとっても大きな遺産となるだろう。

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