食のグローバリゼーション 40

人々の活気と熱気が渦巻く野外のオールド・マーケット

~ カンボジア プノンペン プサー・チャー ~

現代の日本の家庭の食卓を支えるのはスーパーマーケットだ。毎日の献立を考え必要な食材を調達するために、スーパーマーケットに出かける。屋根つきの建物の中はエアコンが完備し、快適な環境で買物をすることができる。食材ばかりではなく、日用品や衣料品、家電製品まで全てのジャンルの商品が揃い、生活に必要なものを全てスーパーマーケットで購入する人も珍しくないだろう。

食材コーナーには、野菜、果物、肉類、魚介類などが整然と並び、目的とする商品を迷うことなく見つけ出すことができる。痛みやすい食材は、低温にコントロールされた棚に保管されて鮮度が保たれる。肉類や魚介類は、台所で包丁を使わなくても料理に使えるような状態にカットされていることも多い。買物の利便性だけでなく、炊事の効率化までが提供される。

買いたい商品が置かれているポイントを短時間で回り、ショッピングカートが満たされればレジに向かう。商品を選んでいるときは他人と話すことはないが、レジのところで唯一の会話がなされる。レジを打っている人から買物金額が告げられるのだ。買物をする際に交わされる会話が購入金額のみというのは、現代の経済優先社会を暗示していると言えなくない。

世界的にもスーパーマーケットや、コンビニエンスストアの数は増加しているが、アジア諸国では、昔ながらの商店や市場が今でも市民の生活を支えている。

メコン川とトンレサップ川の合流点に位置するカンボジアの首都プノンペンには、セントラル・マーケット、トゥール・トンポン・マーケット、オリンピック・マーケット、オールド・マーケットなど、大きな市場が市内に点在している。オールド・マーケットは、現地ではプサー・チャーと呼ばれ、20世紀半ばのシアヌーク政権時代にセントラル・マーケットが建設されるまでは、プノンペンの中央市場、台所であった。

トンレサップ川から約200メートル西に入ったところに、あらゆる種類の商品を売る店が凝縮して軒を連ねている。近代的な建物は一つもなく、全ての店舗は雨除けのためのテントを張っただけの露店だ。野外にあるため電気はなく、照明や冷蔵庫などは完備されていない。

品物を売る人も買物をする人も、着の身着のままで市場の中は、飾らない日常生活の一場面となっている。商品は収穫されたばかりの状態でザルや、バケツ、むしろ、手製の台に置かれる。近隣の田畑や、メコン川、トンレサップ川から産地直送されたものに違いない。冷蔵することによって新鮮さを保つのではなく、新鮮なものしか市場に持ち込むことはできないのだ。日本のスーパーマーケットのようなパック入りの商品など、どこにも見かけることはできない。商品の陳列は必要以上に見栄えをよくするのではなく、自然の恵みそのものの姿で売り買いされている。商品を挟んで飛び交う店の人と買物客の会話は、時にヒートアップすることがある。高く売りたい人と、安く買いたい人の体温のぶつかりあいが、周囲に熱気を放出している。

それでなくても、カンボジアは熱帯の中にあり一年中暑い。テントで陰にならない場所には厳しい太陽の光が降り注ぐ。市場の中は気候からの熱気と、人々の熱気が一体となって渦巻いているのだ。空中には肉類や魚類から発する臭気や、人々の汗の匂いが漂う。それら全てが人々の生活の営みから作られる香りなのだ。プサー・チャーにはプノンペンに暮らす人々の笑顔と活気が満ち溢れ、市場の中を歩いているだけでも、身体の中にパワーがどんどん充填されていくようだ。

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