食のグローバリゼーション 41

クリスマスのチェコは、デコレーションから料理までがコイ尽くし

~ チェコ料理 コイのチーズ焼き ~

日本でコイと言えば、一般的には観賞用とされることが多い。日本庭園の中には必ずと言っていい程、池が掘られそこには数多くのコイが泳いでいる。歴代の内閣総理大臣の中には目白に豪邸を構え、敷地内の庭の池に一匹数百万円とも言われるコイを何匹も放していた人もいる。

水の中を泳ぐコイの姿は優雅で、眺める人に清々しい気分を与えてくれる。鑑賞用にはニシキゴイが飼われることが多く、その色彩は白色をはじめ、黒色、赤色、青色、緑色、黄色、紫色、クリーム色など、とても豊かな彩りをもっている。

池の水の中ばかりでなく端午の節句の時期には、コイは魚類であるにもかかわらず青空の中を泳ぎ回る。男の子の出生と健康を願って江戸時代から続く日本の風物詩だ。日本ではコイの季節は5月となっているのだが、中欧のチェコでは12月に街中にコイの姿が溢れるようになる。チェコでは古くからコイは、新年を迎えるクリスマスの時期の縁起ものとされているのだ。

コイは魚類の中では寿命がとても長く、平均寿命は20年を超え70年以上も生き続けるコイも少なくない。そのためチェコでも日本と同じように、健康のシンボルとされている。クリスマスツリーのデコレーションの主役を務めるのはコイなのだ。鱗を財布に差し込んで金運を祈る習慣まであるようだ。日本とは違った形でコイが装飾やおまじないに利用されているわけだ。

さらにチェコでは、コイを食材として広く利用している。日本でもコイのあらいや、コイこくなどのコイ料理があるが、高級なイメージがあり庶民的な料理とは言えない。ところが、チェコではコイを素材として様々な料理に調理している。特にクリスマスには、コイのスープに始まり、コイのフライや焼き物がメインディッシュとなる。そして最後のデザートにまでコイが登場し、パウンドケーキの形がコイを模ったものとなる。キリスト教とは直接的に関係はないが、クリスマスの日は徹底したコイ尽くしの日となるのだ。このシーズンには、街頭に水槽の中に泳ぐ生きたコイを量り売りする屋台が店を構えるようだ。

海に面していないチェコで魚料理が定着していることは意外にも思える。尤もコイは川魚だから海の幸ではないから、国土の位置は無関係かもしれない。中欧にコイを伝えたのは、中国の僧だと言われている。12世紀にもたらされたコイは、13世紀頃からチェコ国内で盛んに養殖されるようになった。ドイツ人貴族のローゼンベルクが南ボヘミア地方のトレボンに移住し、周囲の沼地を利用して池を作り、コイを養殖し始めたのが起源と言われている。今では国内で養殖される淡水魚の9割をコイが占めるようになっている。

日本のコイのあらいは、魚にしては珍しいこってりとした味わいをもっている。これに対して、フライやチーズ焼きにされたコイは、クセがなくまろやかな味覚となる。魚介類に乏しく肉料理が中心となる内陸部では貴重な魚料理と言えるだろう。コイは良質のタンパク質、豊富なビタミン類に加え、カルシウム、リン、鉄分などのミネラルも多く含む健康食材だ。魚料理好きの日本人であれば、チェコ滞在の期間中に一度は口にしたい料理だ。

ところが、チェコ人ではクリスマスのシーズンにしかコイを食べないという人も多くいるようだ。日本人が数の子を正月にしか食べないのと似ている。世界中には限られた期間にしか味わえない季節料理が数多く存在する。コイ料理は一年中味わえるはずのメニューなのだが、チェコではクリスマス期間限定の季節料理となっているのだ。

関連記事

アーカイブ

ページ上部へ戻る