食のグローバリゼーション 45

滑らかに喉元を過ぎた後に、口の中に仄かに広がる上品な甘さ

~ イタリア料理 パンナ・コッタ ~

食事の後にデザートを味わう習慣が日本に根づいたのはいつ頃のことだろうか。江戸時代以前の庶民には、経済的にも食後にデザートを食べる余裕などありえなかったはずだ。明治時代以降に欧米の文化が取り入れられる中で、徐々に市民生活に浸透してきたものだろう。基本となる食事で胃袋を満たした上での追加の一品には、飽食の感を拭い去ることができない人も数多くいることだろう。

ところが欧米では、デザートはメインディッシュに引けをとることのない重要な位置を固めている。レストランのシェフは、デザートだからといって手を抜くことはありえない。いくら前菜からメインディッシュまでの料理を完璧に仕上げても、デザートが口に合わないと全体の料理の評価を著しく損ねてしまうことになる。それとは逆に、多少メインディッシュでミスをしたとしても、デザートで一気に挽回することだってあるのだ。

途切れることのない時間の流れの中で生活する人間にとっては、最後の瞬間が最も印象が残るシーンとなるのだ。食事においてはデザートが決定的な印象を作ってしまう。少し場面は異なるが、コンサートに行った帰り道に思わず口ずさんでしまう音楽は、プログラムの中で演奏されたメインの作品ではなく、アンコール曲が多くなることに似ている。要するに食後のデザートは、最後の口直しなどという曖昧なポジションではなく、フィナーレを飾る重要なメニューなのだ。レストランのシェフは、メインディッシュに匹敵するような工夫やアイデアをデザートに注ぎ込むことになる。そのため、デザートにもメインディッシュに負けないメニューが誕生した。

イタリアでは、デザートのことをドルチェと呼ぶこともある。ほとんどが文字通り甘いお菓子だ。数知れないデザートメニューは、ムース、ゼリー、ケーキ、タルト、焼き菓子、揚げ菓子に大別することができる。ムースタイプ、ゼリータイプだけを取り出してみても、ザバイオーネ、マチェドニア、ボネ、グラニタ、サングリア、パンナ・コッタなど、名前を挙げるだけでも生唾が口に溢れてくる。

この中で、パンナ・コッタは、日本でも人気のスイーツになっている。酪農が盛んに営まれているイタリア北部のピエモンテ州の家庭のお菓子として生まれた。イタリア語で「パンナ」は生クリーム、「コッタ」は煮るという意味をもっている。

生クリームと牛乳に、砂糖、バニラビーンズを加えて温めた後にゼラチンを溶かし込み、冷やして固めるとパンナ・コッタができあがる。比較的簡単なレシピは、家庭でもできそうだ。ベースとなるパンナ・コッタに、イチゴソースやマンゴーソースなどを加えると、味のバリエーションが無限大に拡大する。さらに、ペパーミントなどを添えてみると、さっぱりとした風味が加わる。

ゼリータイプのデザートには弾力性があり、スプーンで触れるとぷるんぷるんと揺れ動く。口に入れるとつるつるした食感を残しながら、滑らかに喉元を通り過ぎていく。その瞬間には上品な甘さが、仄かに口の中に広がる。食事の最後をしめくくるには、もってこいのデザートだ。食卓ばかりでなく、ティータイムのスイーツとしても大活躍している。

ところが、パンナ・コッタには生クリームがたっぷりと入っているため、かなりカロリーが高い。スイーツの好きな人たちは口々に、「デザートは別腹」という台詞を口にする。魅力溢れるスイーツには否が応でも食欲が掻き立てられてしまう。食べ過ぎてメタボリックシンドロームに陥らないように気をつける必要がありそうだ。

関連記事

アーカイブ

ページ上部へ戻る