食のグローバリゼーション 46

柱状に燃え盛る炎の側面のプールで瞬時に煮あがる鍋の食材

~ 中国料理 火鍋 ~

四季による気候の変化に富んだ日本では、各々の季節によって生活のリズムを変える。気温に合わせて服装を変えたり、住まいの模様替えをしたりする。季節ならではの旬の食材を味わうことができるのも温帯に暮らしていることによる恩恵だ。寒い冬には暖かい鍋から沸き立つ水蒸気が部屋の窓を曇らせる。冬の食卓の一番の楽しみは、何と言っても鍋料理だ。冷たい空気で冷えた体を温めてくれる。

鍋に入れる食材やスープを選べば、味のバリエーションは無限大に広がる。料理の方法は全く同じであっても、飽きることなく毎日、鍋料理を楽しむことができるわけだ。年末年始の忘年会や新年会の主役の料理だ。テーブルの中央に鍋を置き、そのまわりを囲む。家庭での鍋料理は一家団欒の象徴的なシーンともなりえる。土鍋から立ち上る湯気の香りには、暖かさと温かさが漲る。

鍋の中に入る食材は変わっても、鍋を温める方法は同じだ。コンロの上に置いて加熱する。煮え加減によって、土鍋の下を覗きこみながらリング状に燈る炎の大きさを調節する。ぐつぐつとゆっくりと煮込まれる様子を眺めていると、食欲が掻き立てられてくる。

日本ばかりではなく、海外にも様々な種類の鍋料理が存在する。中国にも多種多様の鍋料理がある。その中でも最も特徴的なものが火鍋だ。鍋料理には当然、火を使うわけだが、火鍋というネーミングは豪快な印象を与える。ところが、ネーミングだけではなく、料理方法もとてつもなく豪快だ。

鍋の中央から炎が柱状に飛び出している。これは、まるで火炎放射器だ。戦場でもないのに、テーブルの上に設置された火炎放射器は危険極まりない。煙突状の容器に少しでも手を触れれば、あっという間に火傷を負うことだろう。薄い金属のプレートの中には燃え盛る炭が入っているのだ。これでは具材の煮え加減を見ながらの火の調節も何もあったものではない。

炎の上に鍋を置いて下から加熱するのではなく、炎の熱は側面に伝えられる。金属製の煙突の周りがリング状のプールとなっており、そこにスープが入っているのだ。バランスを考えた食材の全てを一緒に鍋に入れて、全体が煮あがるのを待つという風情はない。沸き立つスープの中に、食材を投げ入れ素早く取り出して食べることになる。鍋料理と言うよりは、しゃぶしゃぶに近いかもしれない。

食材のオーダーの方法も、日本と中国では大きく異なる。日本ではメインの食材の後に鍋の文字をつけると料理メニューとなる。メインの食材に野菜やキノコ類を加えると一つの鍋料理ができあがる。ところが中国では、一種類ごとに単品でオーダーするのだ。レストランでオーダーする際はメニューではなく、具材の単品票が渡される。そこには縦にずらりと漢字が並ぶ。日本で使われている文字と同じものもあれば、中国の簡体字もある。

中国語のボキャブリーの豊富な人であれば、要領よくオーダーすることができるだろう。でも、中国語でブタは「猪」、イノシシは「野猪」くらいの知識しかない者にとっては一苦労だ。鳥肉の種類は判別できない上に、キノコの欄などは全く見当がつかない。同じ人間なのだから中国人が食べるものであれば、日本人だって食べることができるはずだ。勇気を出して、当てずっぽうでオーダーする。

 

次々に出てくる皿に盛られた食材は、自分がオーダーしたものかどうかは正確に判断できないが、当たらずとも遠からずといったところだ。煮え滾ったスープのプールに食材を燻らせ素早く口に運ぶ。中国で火鍋を楽しむには、勇気とスピード感が重要な要素となるのだ。

 

 

 

 

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