食のグローバリゼーション 48

数々の材料が独特の辛味と酸味のハーモニーを作り上げるスープ

~ タイ料理 トム・ヤム・クン ~

海外のレストランで、それまでに聞いたことのない料理をオーダーするには、かなりの勇気が必要となる。どのような食材が、どのように調理されているのか皆目見当がつかないのだから仕方ない。できあがった料理が実際にテーブルに出てきたタイミングで、初めてそのメニューの正体を知ることになるわけだ。初体験の味わいに思わず舌鼓を打つこともあるだろうが、配膳されたときとほとんど変わらない状態でテーブルに残して席を立たざるをえないこともあるだろう。でも、目新しい料理に果敢にチャレンジすればする程、食生活は豊かなものになっていくだろう。

タイ料理のレストランで初めて、トム・ヤム・クンを味わったときのインパクトは強烈なものであった。他のどのような料理でも体験したことのない、クセのある香りと、味わいをもっていたのだ。一口、口に含んだときの印象は正直なところ、「何だ、これは」であった。同じような感想をもったことがある人も、きっと数多くいることだろう。

トム・ヤム・クンは、世界三大スープの一つとしての評価が定着しているようだが、いつ誰が選択したものかは定かではない。タイ語で「トム」は煮る、「ヤム」は和える、「クン」はエビを意味する。直訳すると、エビを和えて煮た料理が、トム・ヤム・クンだ。要するにエビ入りのスープなのだ。

トム・ヤム・クンに使う材料は、一年中暑いタイには豊富にあるのだろうが、日本では見かける機会は極めて少ない。レモングラス、コブミカンの葉「バイマックルー」、青トウガラシの一種「プリッキーヌ」、ショウガの一種「カー」などの香辛料をチキンベースのスープで煮る。これに、タイの魚醤「ナンプラー」、チリ・イン・オイルとも呼ばれる「ナム・プリック・パオ」などの調味料に、ライムの一種「マナオ」の果汁を加えて味を調える。

スープの具材はエビとふくろ茸だけのシンプルなもので、最後に香りつけのために添える「パクチー」を加えたとしても、食べることができる食材は極めて少ない。火にかけられた鍋の中から、スープと数少ない具材を取り皿に分ける。鍋の中には材料に使われたほとんどのものが残されることになる。

スープをスプーンですくって口の中に注ぎ込むと、いきなり口が火事になったのではないかという錯覚に襲われる。強烈な辛さだ。口の中がヒリヒリするばかりでなく、額からは汗が滲み出してくる。この辛味に柑橘系の材料から滲み出た酸味が加わる。酸っぱくて辛いスープなのだが、それだけの表現では物足りなさを感じる。

個性的な料理は一度味わうだけでは、本来の美味しさを感じとることはできないだろう。初体験のときの印象を思い出しながら、再びチャレンジしてみる。さらにもう一度トライしてみる。それを繰り返していく内に、トム・ヤム・クンに溶け込む様々な味わいに気づくようになる。そして最終的には、やみつきになってしまうのだ。

同じ名前の料理であってもレストランを変えて味わっていくと、各々の店での味の特徴に気づくようになる。タイ料理の定番料理と言われるが、味わいの底は深い。スープに使う材料はどれもこれも個性的な香りと風味をもつものばかりだ。材料の量を巧みな配合で組み合わせれば、絶妙な味のハーモニーが完成する。

どうしても辛さについていけない場合は、ココナツミルクを適量加えてもらうと、まろやかな味わいのスープになる。その他の材料にしても、配合のバランスに変化をつけてオーダーすれば、自分好みの最高の味覚を見つけることができるわけだ。

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