1958 MILES by Masuo Ikeda

書類の整理をしようと納戸を漁っていると懐かしいLPが出てきた、中学時代より貯金をはたいて買ったものである。あの頃は(年代は伏せておく)一枚のLP盤を買うのに勇気が要った、子どもにとって容易く買えない値段だったし、買えば自ずと小遣いも消えてしまう、そんな時代だった。眼前にはLPが百枚近くある、そのLPもターンテーブルを処分してしまい、今となっては聴くことは出来ない。
その中の一枚、1958 MILESがある。これは画家の池田満寿夫さんから、著作「私の調書・私の技法」と一緒に戴いたものである。熱海で取材した折、ジャズの話で盛り上がったときにプレゼントされたもの、87年とサインが入っている。

このジャケットの銅版画は、某レーベルのプロデューサーが、倉庫に眠っていたマイルス・デイヴィスの未発表音源テープを見つけたことがきっかけでレコード化したものらしい。その音源をみつけたプロデューサーは、当時ニューヨークに住んでいた池田満寿夫さんにジャケットの製作を依頼したのだという。つまり、日本人が企画し、編集した貴重なアルバムなのだ。

66年、ヴェネツイア・ビエンナーレの版画部門で国際大賞を受賞し、第一線のアーティストとして活躍していたにも拘わらずよくぞ引き受けたなと思う。版画や文学などでは官能的でポップからシュールまで前衛を走り抜けた池田さんだが、お目に掛かるととても気さくで温厚な方だった、存命なら79歳、アーティストとして未だ未だ現役だったに違いない。
どこか日の丸をイメージしたような「1958 MILES」、ジャズ史にも残る貴重なアルバム、いまやプレミアムがついているらしく、高額な値でイギリスのオークションに出ていると言う。となると、当方のLPも……それをやったら野暮というものだ。このレコードが出て直ぐモデファイしたのがあの名盤「カインド・オブ・ブルー」、それまで古くさいハード・バップ・スタイルであったジャズがモード手法と言う新しい演奏手法をマイルスが確立したのである。

カインド・オブ・ブルーが完成形ならば、この1958 MILESは、映像で言うところのアヴァン・タイトルとでも言えば良いだろうか。メンバーはジョン・コルトレーン、キャノンボール・アダレイ、レッド・ガーランド、ポール・チェンバース、ジミー・コブ、フィリー・ジョー・ジョーンズ、そして初参加のビル・エヴァンスという皆個性の強いプレーヤーたちばかりだ。ストイックな旋律であるのに耳元からは愛撫さえも感じるようなエロティシズムさがある。とくにマイルスのミュートが良い、またエヴァンスのピアノのバッキングはモード奏法の予兆を想起する。

友人の音楽プロデューサーから聞いたのだが、マイルスには未発表の作品がたくさん残っているらしい。ライブ演奏を録音したものものや、お蔵入りのものがどこかの倉庫に眠っているとのこと、文学作品などにも書き損じたものや未発表作品等がときに出たりする。さて、その何処かで眠るマイルスの音源、果たして出てくるだろうか。

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