食のグローバリゼーション 51

吊るし切りされた7つ道具の全てを煮込む鍋

~ 日本料理 あんこう鍋 ~

日本の冬の食卓の主役を演じるのは、何と言っても鍋料理だ。

鍋に入れる具材を変えれば毎日、鍋料理でも飽きることはない。

ぐつぐつと音を立てながら湯気を立ち上らせる。

蒸気は窓で室外の冷気に触れ、窓を曇らせる。

これが寒い日本の冬の風物詩と言えるだろう。

鍋を囲んで食事をする光景には、ほのぼのとした暖かさが漲る。

 

鍋料理にはメインとする食材によって、多種多様の種類がある。

その中に、東西の横綱が存在する。

「西のふぐ、東のあんこう」だ。

物流の技術が進歩した現在では、食材の地域性が影を潜め、東日本でも数多くのふぐ料理店が暖簾を掲げている。

ところが、あんこう鍋は西日本で口にする機会は、それ程多いとは言えない。

あんこうが水揚げされるのは、茨城県の沖合を中心とする限られたエリアだ。

北茨城市の平潟漁港、日立市の久慈浜漁港では、大量のあんこうが水揚げされる。

あんこうは、砂泥状の海底に生息し、手足のように変形したヒレで海底を移動する。

素早く泳ぐことのできないあんこうを底曳網漁によって漁獲する。

春先の産卵に備えて肝臓が大きくなる11月から2月が旬の時期だ。

冬の冷たい海水が身を引き締める役割を果たしてくれる。

つぶれたような平たい体形、大きな頭、巨大な口には鋭い歯が並んだ姿は、見た目にはグロテスクだ。あんこうの身体はとても柔らかい上に表面にぬめりがあるため、まな板の上では捌きづらい。

「吊るし切り」と呼ばれる独特の方法で包丁が入れられる。

10キロを超えるような魚体の口を開いて鉤にひっかけるのだ。

調理人は垂れ下がったあんこうを回転させながら要領よく捌いていく。

最初にエラとヒレを外し口の周りに切れ込みを入れ、皮をはがした後に内臓や身が外される。

順番に切り取られた部位は、骨以外にほとんど捨てるところがない。

肝、とも、ぬの、柳肉、水袋、エラ、皮を総称して、「あんこうの7つ道具」と呼んでいる。

「とも」は胸ビレや尾ビレ、「ぬの」は卵巣の部分を指した名称だ。

「柳肉」と呼ばれる胴体や頬の白身の部分は、あっさりとした味わいをもつ。

皮やとも、エラのゼラチン質は、部位ごとに特有の食感をもつ。

肝は「海のフォアグラ」とすら評されることもある。

 

年々漁獲量が減少し高級魚の仲間入りをしつつあるあんこうの味わい方には、様々なレシピがある。

肝だけを蒸してポン酢で、ぬの、とも、皮を湯引きして酢味噌で味わうなど、各々の部位を単品で味わうことも多い。

また、漁に出た漁師が船の上で、あんこうを豪快にぶつ切りにして調理する「どぶ汁」という漁師料理もある。

そして最も一般的で、「7つ道具」の全てを利用するのが、あんこう鍋だ。

あんこう鍋は、味噌仕立てか醤油仕立ての2種類の割り下で、7つ道具をじっくりと煮込む。

スープは、食材のもつ味わいを損ねることのないように、あっさりとした風味とすることが多いようだ。

肝をどれくらい入れるかで、最終的なコクや旨味、風味が決まる。

ぐつぐつと煮込まれる7つ道具を、鍋をつつきながら捜すことが、あんこう鍋の味わい方の第一歩だ。

順番に皿に取り、各々の部位がもっている特有の味覚と食感を確かめる。

一種類の魚で、あんこうほど多彩な味わいをもつ魚は、それ程多くはないだろう。

味覚的な面だけではなく、あんこうにはタンパク質、コラーゲンをはじめ、ビタミンA、ビタミンB2、ビタミンE、亜鉛、銅など、豊富な栄養素を含んでいる。

ビタミンCの多い野菜とともに食べると、美肌効果が期待できる。あんこう鍋は、日本の冬の鍋料理の解禁を告げるレシピと言えそうだ。

 

 

 

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