ドキュメンタリー映画「まちや紳士録」〜つくろいの旅が始まる

ここかしこで古い町並みが消え、更地化が進み土地は疲弊し慣れ親しんだ人々は町から離れていく。

シャッター通り、この数年このような呼び名が日本列島を駆け巡った、町は死に体状態となって石塔のような建物が空高く延びるものへと一変していく。

そのような効率優先の考えに異を唱え、ひとりの男が街並みを遺すために町の住人たちと共に奮闘していく様をドキュメンタリー映画に収めた。

タイトルは「まちや紳士録」、撮影場所は福岡県八女市八女福島、監督は伊藤有紀監督。

 

 

伊藤監督とは面識はないが、これを製作したKプロデューサーが私の友人で長い間東京と福岡を往復しながら映画製作に携わってきた。

K氏自身が福岡出身と言うことで、彼も先陣を切って町並み保存のために東奔西走したのだろう。

性格はどちらかというと物静かなタイプで、口元から発するものがうまく聞き取れない場合もあった。

そんな彼が一大決心し、壊されてきた数々の伝統的な街並みを取り戻すために奔走した、失礼ながら彼にそんな内に秘めた熱いものがあったとは……とにかく祝杯を挙げたい気分だ。

地上波番組製作に忙殺される中、地元福岡で地域の人たちと打ち合わせをし、問題点を探りながらプロデューサーとしての役割をひとつひとつ積み上げてきたのだと思う。

 

彼からこの話を聞いたのは2年前ぐらいだろうか、”都会ばかりだけではなく、地方の街並みが壊されています。

美しい街並みが消えてしまうことは納得出来ない、なんとかしなければ”こんな言葉だったと記憶している。

それも淡々と語るために、よくある企画の話として聞いていただけだった。

企画だけで終わるのがこの世界の常、だから彼には悪いが真剣に聞いていなかった、それよりも自分の企画をなんとか通過させるためにK氏の肩ばかり叩いていたような気がする。

なんと浅ましい考えだろうか、いやこれが本音だ、人を蹴落とし自分だけが生き残ることしか頭にない老獪で卑しい人間である、だからといってフリーランサー全員がこのような卑劣な考え方をするわけではない。

ドキュメンタリー映画、中身がどんなに良くても集客数には繋がらないのがドキュメンタリー映画の宿命だ。

それにバジェットも潤沢でないし、時間ばかり掛かり辛抱という言葉が一番当てはまる生業である。

 

労苦が多く華やかさなどない世界だ、それでも伝えたい物語が日本にはたくさん眠っている、それを呼び起こすのが表現者たちのheavy‐dutyなテーマなのだ。


現在残っている町並み保存地区は、全国で104件と言う、その一つが今回の”まちや紳士録”この104件と言う数字が多いか少ないか判断が付かない、多分少ないカテゴリーに入るのだと思う。

この八女福島に引っ越してきた伊藤監督と妻。越した理由の詳細は分からないが監督自身は旅番組が縁で東京から移住したと言う。

そのような中でいつしか人と人とのつながりが出来ていき、町並みを残すために情熱を注ぐ人、移住を希望する若い一家、
伝統技術を次の世代に伝えようとする人々との出会いがあった。

 

伊藤監督は、重要伝統的建造物群保存地区に選定される八女福島の町に於いて、住人たちが町並み保存に奮闘しているのを見て胸騒ぎがした。

東京とは違う地方の魅力、それは昔からそこに佇む古い建物の魅力であり、受け継がれている祭りの文化的な要素に惹かれていった。

ここ八女福島には、これからの日本にとって大切な何かがあると八女在住の監督は言う。

外からの景色を撮るのではなく人口7万人、百年以上の町屋が並ぶ八女福島の内側から何が見えるのか、それを撮りたいとカメラを回し始めた。

約100戸の古民家が軒を並べ1世紀、2世紀に及ぶ人々の暮しがこの八女福島にあった。

その暮しぶりは、南北東を山に囲まれた環境、それ故に木工も発達し、多くの仏壇を生んだ。また茶の文化も育つ土壌だ、八女茶である。

そのような景観の下で町の建物は息づき、人々の暮らしもそれに付随してきたのであった。

がしかし、その町家が、保存という面で危機に直面し始めた。

住民の高齢化という問題も出て、町家は現代社会の遺物としての存在となり、町家を守るべきか問われている。

伝統を重んじるか、それとも建て替えるべきか、これは八女福島だけに問われているものではない、日本という国自身が問われている問題だ。

この”まちや紳士録”は、一年を通して「町家とそこで暮らす人々に内在する生活の機微」を追いかけた切実なる物語である。

 

映画上映は福岡のKBCシネマで12月7日スタートした、地元発信初公開である。

上映時間は88分、初日は監督の舞台挨拶もあった。

東京はイメージフォーラム(渋谷)で2月公開の予定、その後順次全国公開がスタートする。

友人が作った映画、是非ご観覧をと切に願うばかりである。

 

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