地球のエネルギーによって形成された巨大な陥没孔を覆うスカレシアの緑
~ ガラパゴス サンタ・クルズ島 ロス・ヘメロス ~
全人類の悲願は不老長寿であろうが、残念ながら動物には寿命がある。
100歳を超えても元気な生活を送る人もいるが、大半の人間は2桁の年月でこの世を去ることになる。
比較的平均寿命の長い日本人でも、女性で80台半ば、男性で70台後半が平均値だ。
人間社会は、一定のサイクルで世代交代をしながら地球上に歴史や文化を築いているのだ。
それでは人間が生活する基盤の地球には寿命というものが存在するのだろうか。
地球の誕生は約45億年前のことと推定されている。
人間の寿命と比較すると、想像を絶する正に天文学的数字だ。
45億年に及ぶ間、地球の地下深くにはマグマが燃え滾り、絶えることなく地球の形を変形させている。
海の水に隠れる海底の地形から、標高8848メートルで世界最高峰の山として知られるエベレストの山頂まで、地表の起伏は地球の莫大なエネルギーによる地殻変動で生まれたものだ。
赤道直下の太平洋上に浮かぶガラパゴス諸島も、地球のエネルギーが産み出した島だ。
諸島の遥か西方の太平洋の海底には、東太平洋中央海嶺が南から北に向かって走っている。
海嶺の南側にはナスカプレートと呼ばれる海洋底があり、北側のココスプレートと連動して東の方向に移動している。
ガラパゴス諸島の陸地を構成するガラパゴス海台は、ナスカプレートに乗っかっており、一年に約5センチの速度で東南東に今でも移動し続けているのだ。
地球は一つの生命体のように生き続けていると言える。
ガラパゴス諸島の最西端に位置するフェルナンディナ島近くの海底には、ナスカプレートを突き破るマグマの吹き出し口が存在する。
ガラパゴス・ホットスポットは約1500万年前に出現して以来、間欠的にマグマを噴出しガラパゴスの海域に点在する島々を形成してきた。
島々の中には今でも活動を続ける活火山があり、最近では2009年にフェルナンディナ島で噴煙が巻き上がった記録がある。
現時点では100を超える島々が確認されているが、ガラパゴス・ホットスポットはガラパゴス海台の東側のカーネギー海嶺に新たな島を創出することもありえる。
数十万年の単位で景観を変えるガラパゴスの島々は東に行く程古く、最も古いサン・クリストバル島は200万年から300万年前に形成された。
最も新しい島は島内に活火山をもつフェルナンディナ島で、約50万年前に海上に姿を現したと言われている。そして、最も人口の多いサンタ・クルズ島は、約150万歳の休火山だ。
面積1000平方キロ足らずのサンタ・クルズ島中央のハイランドには、地球の創作活動の痕跡がくっきりと残されている。
マグマ溜りの崩壊によって陥没孔が形成された。
道を挟んで2つある陥没孔は、スペイン語で双子を意味するロス・ヘメロスと名づけられた。
直径数百メートルに及ぶ巨大な穴は、地球の莫大なエネルギーでなければ形作れないものだろう。
黒ずんだ火山岩が絶壁を作っており、空洞の底を覗きこむと足がすくんでしまう。
火山岩で覆われた島は、誕生の当初には生物の姿はなく殺風景なものであったに違いない。
それが長い年月を経る中で、生命を育むようになる。
サンタ・クルズ島は、湿潤な気候であるため、スカレシアが根をはるようになった。
水分が豊富とは言っても土壌は火山岩だ。
スカレシアは生命力の強い植物なのだろう。
少しずつ仲間を増やし、現在では陥没孔を覆うようにカレシアの群生林が形成されている。
異様な姿の火山岩の上に、緑の潤いを与えているようだ。