都市は、巨大な一着の衣服

地方都市には珍しく、横浜市に都市デザイン課(旧アーバン・デザイン)というセクションがある。

横浜市の中心部とも言える山下公園沿いに立ち並ぶ過去何年からの建造物は、ほとんど道路より奥まって建てられ、建物と道路の間にタイル敷きの広いスペースが施され生活空間そのものにゆとりが垣間見られる。

横浜市は、みなとみらい、横浜ベイエリア、赤レンガ、そして元町など個性的な都市デザインを、どこの自治体よりもいち早く取り組んできた。

 

このようなデザインは、ローレンス・ハルプリン(註1)が唱えるランドスケープの問題よりさらにもう一歩踏み込んだ、人間の感覚に立ち入った効果を映し出している。

ひたすら広々と見える緑の木々とコンクリートやガラスが美しく調和し構成されている、と言う以上に人はそのわずかながらでも、人が歩くためにだけに用意されたそのスペースを眺めることによって、足の裏に一種の石畳のような素材感、触感などを蘇らせることができるのだ。

都市生活の自動化に伴って、人間の五感が少しずつ失われようとしている原感覚は次第にその重要さが浮上し意識化されてきたように感じる。

ファッションの流行と都市のフェーズの移り変わりがよく似ている、建築物と衣服が素材と言う点でも似たような変化を見せている”服は人間にとって最も親密な個人単位の建築である”ことを想えば人はファッションを思考することによって都市と同化する。

どこからが都市でどこからが田舎なのか、とふと考える。

しかし情報がネットに伝播し、全土にほぼ同質の商品とニュースが行き渡る以上、地球をひとつの巨大な空中都市として考えざるを得ない。

 

フーゴ・バル(註2)が”時代からの逃走”を図り、自分たちだけの都市をキャバレー・ヴォルテール(註3)に模型化しようとしたのもほかならぬヨーロッパが大戦と共に”都市”を失ったからではないだろうか。

このキャバレーで毎晩繰り広げられたお祭り騒ぎのようなダダ・イベントの中でもファッションは重要なアイテムだった。

逆に考えれば、都市は巨大な一着の衣服なのだ。人は時間という服、仕事という服、遊びという服、そして都市という服を着、息づく。

デジタルが先鋭化する時代にあって、人はそれにどこかで同化しようと努力を払う。

いつの時代にもその同化作用は”モダニズム”と呼ばれてきたところのものに違いない。

デジタル通信を媒介にして操作する体験の中に、皮膚感覚を求める……思えば時代のデザインとはいつもこういう場面から登場してきていたように思う。

 

Building

 

(註1)
アメリカの造園家、ガーデン及び環境デザイナー、ランドスケープ、アーキテクト。

ダンサーで、サンフランシスコ・ダンサーズ・ワークショップを主宰し妻であるアンナ・ハルプリンとともに、公的な空間と利用者との相互関係に視点を当て、噴水広場やアメニティに配慮した公園や歩行者空間・エクステリア空間などのデザインを行った。

また、1960年代から、今日のワークショップをデザイン教育、住民の体験を基にする市民協働まちづくりの分野へ取り入れるといった手法も実践した。

 

(註2)
フーゴ・バルは1886年(明治19年)2月22日、現在のドイツに生まれ、音楽好きで敬虔なカトリック信者の家庭に育った。

バル家は決して裕福ではなかったが(兄弟5人)、彼はギムナジウム卒業後、一度大学進学を断念して、皮革工場に就職している。

大学入学のとき、彼は20歳で、5年間大学に在学、ニーチェに傾倒するが、大学を辞め、1910年、ベルリンで演劇学校に入り、4年ほどの間、ドイツ国内の小劇場で、舞台監督や演出家として活動していた。

バルはやがて、第一次世界大戦中ドイツから逃れて、チューリヒのシュピーガルガッセという湖畔近い古い街の一角に芸術・文学のキャバレー、「カバレー・ヴォルテール」を開き、いわゆる「ダダ」運動の開祖、その精神的支柱となる。

 

(註3)
第一次大戦時に亡命知識人の受け皿となったスイス・チューリヒに集まった芸術家たちの活動拠点として、1916年2月5日にドイツ人文学者のフーゴ・バルとパートナーで詩人のエミー・ヘニングスが開いたキャバレー。

スイス、チューリヒのシュピーゲルガッセの1番地にあった。

チューリヒ・ダダの活動拠点として知られる。

キャバレーの名は、フランスの啓蒙思想家ヴォルテールに由来する。

キャバレーには、トリスタン・ツァラ、ハンス・アルプ、リヒャルト・ヒュルゼンベックといった作家や、各国からやってきた亡命者が多く集まった。

なお、第二次世界大戦後は空き家となっていたが、市の所有建物となり2003年に観光促進という目的で賃貸され、写真のような外観を呈して、改めて開店されているが、当時のものとは全く無関係である。

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