アンデスの大地に刻まれるアース・アート 3

デフォルメされたかに見える嘴に潜むリアルな表現

~ ペルー ナスカの地上絵 ハチドリ ~

アンデス山脈の西の麓、ナスカに広がる東西40キロ、南北50キロの2000平方キロメートルのエリアには、何本ものラインを引かれ地上絵が描かれている。

十数体の図形に描かれたものの名前がつけられてはいるが、これら以外にも地上絵が潜んでいるかもしれない。

地球規模で描かれた図形は、上空からか高い展望台に登らなければ確認することはできない。

夥しい数のラインが引かれているため空中を動く機体からは造形物を見出すことは至難の技だし、展望台を設置するといっても広大なエリアを埋め尽くす展望台を作ることもできない。

数多くの学者たちが各々の方法で十数体の図形を確定したのだ。

 

ナスカの地上絵の中が紹介されるとき、最も頻繁に使われているのはハチドリの絵だろう。

ナスカの平原の中でも北西端に近い小高い丘の上にくっきりとした輪郭線をもって描かれている。

ハチドリはアメリカ合衆国の南西部からアルゼンチン北部に生息する鳥だ。

体長は10センチ前後しかなく、鳥類の中で最も小さいグループに属する。

ハチドリの特技は、空中で静止するホバリング飛翔だ。

英語名でハミング・バードと呼ばれているのは、花に接するように空中で静止し花の蜜を吸う時に、歌うような音を出すことに由来している。

ナスカに描かれたハチドリの絵は、胴体から嘴、翼、足、尾羽が放射状のラインで描かれ極めて印象的だ。

左右に広がる翼は3本の羽根で描写され、ホバリング飛翔の瞬間を捉えているのだろうか。

翼の後ろには、不器用な印象を感じさせる3本の足指が描かれている。

空中を飛び回る鳥の足は退化していく。

ハチドリも地面を歩くことができず、衰えた足では枝に止まることしかできない。

動物の進化によってかろうじて残された役割が造形に滲み出ているかのようだ。

足の後部には尾羽が描かれる。

中央が最も長い5本の羽根は、空を飛ぶときに舵をきる。

5本の尾羽をまっすぐ平行に伸ばすと、快速飛行ができることだろう。

そして、ハチドリの図で最も特徴的な部分は、デフォルメされた嘴だ。

顔から一直線に伸びる。

空中ホバリングで花の蜜を吸うとは言っても、ここまで長い嘴は必要ではなかろう。

大地に描かれた嘴の長さは約45メートルにも及び、嘴の先から尾羽の先までの全長の半分を占めている。

でも、実際のハチドリの体長は嘴の長さで決まり、どうやらハチドリのもつ特性を忠実に表現しているようだ。

 

放射状のラインで描かれた図からは、リアルであるばかりでなく力強い生命力が滲み出ているように感じられる。

 

写実的な構図とは言えないないながらも、図形が描く世界は実はリアルなのだ。

創作者のセンスが漲り、愛情をもってハチドリを観察しなければ産まれ得ない構図だ。

 

ナスカの数ある地上絵の中でも、ハチドリの絵は早い時期に描かれたと推定されている。

渡り鳥であるハチドリは、雨季の前にナスカの周辺に姿を現す。

水源の乏しいナスカの大地に「水をもたらす鳥」として親しまれ、豊穣のシンボルとして描かれたと推測することができる。

広大な大地に数々の地上絵が描かれるナスカでは、ハチドリを描いたものと考えられながら特定されるにはいたっていないラインが数多くある。

長年の風雨で崩れてしまったものも多いことだろう。

これらを含めるとナスカの地上に最も多く描かれた動物はハチドリであることは間違いないようだ。

平原の周辺からもハチドリを絵柄とする土器が数多く出土している。

ナスカに暮した人々はハチドリをこよなく愛し、神聖視していたと考えることができるだろう。

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