南アメリカ大陸から約1000キロを漂流したゾウガメの祖先種
~ ガラパゴス サンタ・クルス島 ゾウガメ 1 ~
島国の日本は数えきれない島を国土としてもっている。
地理的な名称をもたない無人島もあるだろうが、各々の島に一つ一つの名前がつけられている。
島名の中には島の特徴に由来するものも数多くあるだろう。
太平洋の赤道直下に浮かぶガラパゴス諸島は、かつてはゾウガメの楽園であったことから命名された。
ガラパゴはスペイン語で馬の鞍を意味し、ゾウガメの甲羅が馬の鞍に似ていることから、ガラパゴス諸島と命名されたのだ。
ガラパゴス諸島は、500万年前から1000万年前の海底火山の噴火によって形成されたと考えられている。
海底の地形や諸島の地質などの地球科学調査が、それを裏づけている。
火山の噴火によって誕生したばかりの島には、動物や植物が育つ環境はなかっただろう。
見渡す限り溶岩が広がる殺伐としたものであったに違いない。
溶岩で作られた島々が、様々な生物の楽園となったのは謎に包まれる。
諸島は南アメリカ大陸から約1000キロもの距離を隔てる「絶海の孤島」だ。
その孤島に生き物たちは、一体どこから、どのようにして、ガラパゴスにやって来たのだろうか。
ビーグル号に乗船してガラパゴスにやって来たダーウィンは、『ビーグル号航海記』の中で、ガラパゴス諸島の生物はアメリカ大陸の生物と著しい関係をもっていると記述している。
このダーウィンの推論はその後、遺伝子や地質、化石などの化学調査、研究によって立証されつつある。
遠く離れたアメリカ大陸から移動したとすると、気流、海流、鳥が運ぶなどの手段が考えられる。
それでは、諸島の命名の由来となったゾウガメはどうやってガラパゴスに渡ってきたのだろか。
1990年代に遺伝子鑑定が行われ、ゾウガメの祖先は南アメリカ大陸に生息するチャコリクガメの類縁種であることが判明した。
200万年から300万年前に、海流に乗ってガラパゴス諸島に辿り着いた祖先が生き延び、ゾウガメに進化したというのが定説となった。
ところが、ゾウガメはカメの一種とは言っても陸上で暮らすことが多い。
1000キロの海を一度も陸に上がることなく泳ぎきる程の泳力をもっているとは思えない。
自らの力で泳ぎ着いたというより、何らかの原因で漂流したと考えられている。
産卵の場所を求めて大陸の浜辺を歩いていたメスガメが、高波にのまれ漂流したか、流木などに乗って諸島まで流れ着いたかのだろうか。
産みつけられた受精卵が周囲の土とともに流木などに乗り、諸島まで流れ着いたのではないかと考える学者もいる。
南アメリカ大陸からガラパゴスに向かって流れる南赤道海流に乗れば、1週間前後で1000キロを移動することができる。
とは言っても、赤道直下の厳しい陽射しが照りつける中での航海は、陸上で暮らす動物にとっては過酷だ。
ところが、ゾウガメは乾燥に極めて強い。
代謝が低く飲まず食わずでも最長1年間、生き続けることができるという。
体内に蓄えた脂肪を代謝し代謝水を産み出すため、1週間程度ならば海の上にいても問題はないのだ。
遠洋航海を経てガラパゴスに漂着したゾウガメは、諸島内の11の島々に上陸し、各々の島で進化し15種類の亜種に分化した。
サンタ・クルス島にはサンタクルスゾウガメ、イサベラ島にはベックゾウガメやギュンターゾウガメ、バンデルバーグゾウガメ、セロアスルゾウガメなどが暮らしている。
現在ではガラパゴス諸島全体で、約15000頭のゾウガメが生息する。
天敵のいないガラパゴス諸島は、ゾウガメにとってのパラダイスなのだ。