アンデスの高地に暮らす人々にとっての貴重なタンパク源
~ ペルー料理 アルパカ・ア・ラ・パリージャ ~
地球上に生存する動物にはそれぞれ、快適に生きていくための環境条件が存在する。
熱帯に暮らす動物を寒帯で見ることはできない。
砂漠で元気に生きる動物がいるかと思うと、湿潤地域でしか生きることができない動物もいる。
気温ばかりでなく、降水量、気圧、酸素濃度などに、各々の動物が生存するための限界条件があるのだ。
地球に暮らす人々の大半は、低地の平野部に暮らしている。
ところが、地球は山や海などの起伏に富む。
人間は気体の酸素のない海中では暮らせないながら、気圧の低い高原地域を生活環境とすることは可能だ。
アンデスの山脈が険しい山岳地帯を作る南アメリカ大陸には、古くから数多くの高原都市が築かれてきた。
高地では酸素濃度が少ないため環境に慣れていない人は、少し体を動かしただけで息があがってしまう。
低地で暮らしている人が突然、高地に移動すると高山病に罹ってしまうこともある。
高山病のために体が思うように動かなくなった人でも数日間、高地にいればそこで日常生活を送ることができるようになる。
過酷な自然環境に見える高地でも、古くから人々が生活を営み特徴的な文化を築いてきた。
アンデス山脈が険しい傾斜を作る南アメリカ大陸には、標高3000メートルを超える高地に都市が形成されてきた。
富士山の標高は3776メートルだから、富士山の山頂や、それよりも高い所に都市が形成されているのだ。
気圧や酸素濃度が低い環境では、動物だけではなく植物も育つ種類は多くない。
アジア地域で主食としている米や、欧米地域で主食としているパンの素材の小麦は、高地では育たない。
食材とする植物は、トウモロコシやじゃがいもが中心となる。
傾斜の多い地域では畑の面積を確保するには工夫が必要だし、収穫した食材を運ぶには体力を要する。
人間が生活するには、力持ちの動物の助けが必要となる。
高地で生きることができるリャマやアルパカが、人々にとって無くてはならない大切なパートナーだ。
アルパカは海抜3500メートルを超え5000メートルにも及ぶ高地でも生きることができる。
ペルーやボリビア北部、チリ北部などの高原地帯では、いたるところでアルパカが放牧されている。
アルパカが、家畜化されたのは紀元前3世紀から4世紀頃にまで遡ると推定されており、アルパカと人間は2000年以上にもわたってアンデスで共存してきたのだ。
険しい坂道を重い荷物を運び人々を助けてくれるアルパカは、そればかりでなく別の贈物を提供してくれる。
極めて良質な体毛で覆われているため、その体毛が寒冷地で暮らす人々には格好の衣類の素材として活用されるようになった。
アルパカの体毛はアルパカ自身だけではなく、加工され人間の体を温めてくれるのだ。
アルパカ毛は羊毛より軽く、ウールの中でも最も上質のものと評価されている。
柔らかな体毛に覆われ、つぶらな瞳をしたアルパカは家畜としてとても愛らしい。
毎日一緒に暮らせば、きっと人間と同じようなファミリーな愛情が生まれてくることだろう。
ところが、アルパカの肉は食材としても利用されているのだ。
高地では動植物の種類が少なく、タンパク源となる食材に乏しい。
貴重なタンパク源として、アルパカの肉をステーキやフライにして食べるのだ。
スリムな体型をしているせいか、脂肪が少ない。
牛肉や豚肉に比べると少し硬いが、噛めば噛むほど味わいが滲み出してくる。
一度食べて病みつきになるほどの味覚ではないながら、アンデスの高地に生きる人々にとっては無くてはならない食材なのだ。