食のグローバリゼーション 55

じっくり煮込まれた一羽の雛鳥の甘味と、高麗人参の苦味が絶妙のバランスを作るスープ

~ 韓国料理 参鶏湯(サムゲタン) ~

一日の仕事を終えたサラリーマンが、同僚たちと軽く飲食する場合の定番と言えば、焼鳥屋だろう。

ビールで喉の渇きを潤し、串に刺された鶏肉を食べる。

様々な部位の鶏肉を好みに合わせてオーダーする。

正肉、砂肝、手羽先、皮、ハツ、セセリ、ボンジリなどを順番に食べて行くと、軽く食事をするつもりが、いつの間にか満腹になり重い体を引きずるように店を出ることとなる。

焼鳥屋によっては食材ばかりでなく備長炭などを使い、焼き方にもこだわりをもつ店もある。

独特の形をしたコンロの上に平行に並べられた串からは、じゅうじゅうと音をたてながら煙がたなびき、店の中は香ばしい香りが充満する。

自然に食欲がかきたてられてしまう。

串に刺された鶏肉は、一口サイズの大きさに切られている。

味ばかりではなく食べやすさも、焼鳥の人気の一つの要因かもしれない。

様々な部位を順に味わうのも鶏肉の味わい方に違いないが、丸ごと一羽という食べ方もある。

 

韓国では鶏肉を丸ごと一羽使って、スープにした料理がある。

参鶏湯(サムゲタン)は、土鍋のトゥッペギの中央に鶏肉がスープの水面から盛り上がっているのだから、テーブルに置かれた姿はかなり豪快だ。

雛鳥の腹の中から内臓を全て取り出し、その空間に高麗人参をはじめ、もち米、干しナツメ、栗、松の実、ニンニク、ネギなどを詰める。これを鍋に入れ水を加えてにじっくり煮込む。

数時間煮込むのが標準的だが、丸一日かけて煮込むこともある。

 

参鶏湯の原型は、鶏肉を水炊きした後に塩などをつけて食べる「ペクスク」や、鶏肉にもち米を入れた粥の「タックク」と言われている。

いずれのレシピも比較的シンプルなものだ。

そのレシピが改良され参鶏湯では、韓国の代表的な食材でもある高麗人参の他、バラエティーに富んだ素材を加えるようになったのだ。

韓国の町を歩いていると、いたるところで高麗人参に出会うものだが、日本ではそれ程人気のある食材とは言えないだろう。

口に入れると、独特の苦みと香りに加えて、掘り出される前に人参を包んでいた土の香りを感じることすらある。

高麗人参を使った料理を食べると、どうしても薬膳料理を連想してしまうものだ。

高麗人参は、漢方薬にもしばしば利用されているのだから、当然のイメージと言うこともできる。

 

韓国人は参鶏湯を暑い夏の三伏の日によく食べるようだ。

高麗人参による滋養、強壮の効果が期待できるため、夏バテの防止用の格好の料理だとされている。

日本人が土用の丑の日に、ウナギを食べるのと丁度同じ発想だ。

白濁して若干の苦みをもつスープが、甘みをもつ鶏肉の味をひきたてる。

じっくりと煮込まれた鶏肉は、スープに溶け込むのではないかと思わせるくらいに柔らかくなっている。

箸で小さく切りながら、スープをたっぷりつけて味わう。

食べ進めるに従って、甘味と苦味のバランスのよさが感じとれるようになってくる。

ところが、参鶏湯の独特の味わいに慣れてくる頃には、箸が止まってしまう。

何しろ雛鳥とは言っても、丸ごと一羽が入っているのだ。

自分の胃袋の大きさを確認することなどできないが、鍋の中の鶏肉の大きさとは比較にならないだろう。

全部を胃袋に入れたらならば、たちまち胃袋ははち切れてしまうことだろう。

そればかりか、スープの中にはもち米まで入っているのだ。

韓国人は一人で一人前を平らげてしまうのだろうか。

韓国人と同じように参鶏湯を味わいたいと思ったならば、最大限にお腹を空かせることが必須と言うことができるだろう。

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