ゾウガメやリクイグアナとの共進化によって姿を大きく変えるサボテン
~ ガラパゴス サンタ・クルス島/サウス・プラザ島 ウチワサボテン ~
乾燥した熱帯の植物として、最初に頭に浮かぶのはサボテンだ。
南北アメリカ大陸を原産とし、日本の山や野原で見ることはできないが、観賞用に鉢植えされたサボテンをしばしば見かける。
トゲに包まれる姿には痛々しさを感じることもある。
このトゲは葉が退化したものだ。
乾燥した地域では、葉から水分が蒸散することを防ぐために、面積の小さい針のような形に変えたのだ。
一般に植物が葉で行う光合成は、サボテンの場合は茎で行う。
茎の中の葉緑素を使って光合成を行い、生長に必要な糖分を作り出している。
さらに茎は、大切な水の貯蔵庫でもある。
雨が降った機会を逃さず水分を根から吸い上げ、茎にしっかりと蓄え乾燥に備えているわけだ。
ガラパゴス諸島ではいたるところで、ユニークな形をしたサボテンに出会う。
最も多く見られるのがウチワサボテンだ。
アカマツの樹肌を思わせるような赤くて太い幹を持ち、その直径は約30センチ、高さは8メートルにも達するようだ。
他のサボテンと同様、ウチワサボテンも環境に合わせて姿を大きく変えている。
葉が退化し茎が発達しているのは仲間との共通点だが、ガラパゴス諸島のウチワサボテンには、特殊な環境条件が加わるようだ。
ガラパゴスの島々の中には、ゾウガメやリクイグアナが生息する島と、生息しない島が共存している。
このゾウガメやリクイグアナの存在の有無が、ウチワサボテンの形態に大きな変化を及ぼした。
ゾウガメやリクイグアナは、ウチワサボテンの茎や花、果実を大好物としている。
つまり、ゾウガメやリクイグアナは、ウチワサボテンにとっては天敵のような存在だ。
ところが、植物は地に根を張っているため、動物のように捕食者から逃げることができない。
その姿を目で捉えることだってできない。
そうは言っても、ゾウガメやリクイグアナの餌となるばかりでは、花を咲かせ実を結ぶまで生長することができなければ、種族の維持もおぼつかなくなる。
植物の中に頭脳があるかどうかは定かではないが、要するに頭を働かさなければ絶滅してしまう。
そこで、ウチワサボテンは見事な対処方法を考え出した。
先ず芽生えたばかりの幼植物のときには、長くて丈夫なトゲを密に生やし、動物から身を守る。
年月を経て高く生長するとともに、幹を堅い樹皮で覆い動物の歯が立たないようにし、幹の上部に枝を広げて花をつけるように生長方法を変えたのだ。
ゾウガメやリクイグアナの口が届かないところで、種族保存のための実が結ばれる。
実際にガラパゴスの島々を移動すると、ウチワサボテンの進化の過程がはっきりと見てとれる。
ゾウガメやリクイグアナのいないサウス・プラザ島では、エキオス種のウチワサボテンが多く育つ。
幹の背丈は低く、枝や茎が地面すれすれの所まで垂れ下がっている。
ここに、もしゾウガメやリクイグアナがいれば、格好の標的となるだろう。
これに対して、数多くのゾウガメやリクイグアナの棲む島、サンタ・クルス島のウチワサボテンは、幹の背丈は大樹のように高く育ち、人間の身長よりも遥かに高い位置に枝を広げている。
エキオス種の変種ギガンテアと呼ばれる亜種が誕生したのだ。
これだと、ゾウガメやリクイグアナに食べられることはないばかりか、視線にすら入らないだろう。
頭でっかちな姿は安定感に乏しいが、生き延びるためには仕方がない。
ガラパゴスの島々に育つウチワサボテンは、ゾウガメやリクイグアナとの共進化によって、新しい亜種を誕生させたのだ。