パリ・オペラ座のバレエ団を描いた映画”エトワール”

ロシアのボリショイ・バレエ団の芸術監督セルゲイ・フィーリンが顔に硫酸を浴び世界を震撼させたのは記憶に新しい、、、

バレエという職業が如何に嫉妬深く、富と名声を巡る欲望深き醜いものであるかということをまざまざと見せてくれた事件であった。

いまだ事件は解明されておらず藪の中、世界有数の名門バレエ団ボリショイ・バレエ団に世界が耳目を集めている。

そんな最中に2002年にBunkamura ル・シネマで公開された「エトワール」を見逃したため、DVDを借り12年振りにやっと観ることができた。

ドガの油彩画”バレエのレッスン”が現代に蘇ったようなポスターに見惚れ、オペラ座の舞台裏がどんなものなのか観たかった。

映画『王は踊る』でも描かれていたように、ルイ14世と彼お気に入りの音楽家リュリはバレエが大好きだった。

そこで国王とリュリが作ったのが、現在のパリ・オペラ座バレエ団の前身となる王立舞踏アカデミーと、オペラ座付属のバレエ学校だった。

 

パリ・オペラ座のバレエ団は340年以上の歴史と伝統を持つ、世界最古のバレエ団なのだ。

 

この映画は、そんな由緒あるバレエ団の「今」を取材した長編ドキュメンタリー映画だ。

タイトルの『エトワール』とは、パリ・オペラ座で最高のダンサーに与えられる称号。

オペラ座バレエ団ではダンサーたちを4つの階級に分け、毎年の昇級試験で団員たちが常にしのぎを削る過酷な競争社会を構成している。

バレエ学校を出たばかりの新人は最下級の「カドリーユ」からバレエ団員の生活をスタートし、「コリフェ」「スジェ」「プルミエ・ダンスール(女性はプルミエール・ダンスーズ)」へと1ランクずつ昇格していく。

しかしエトワールはそれらとはまったく別格の存在。

プルミエのダンサーが試験でエトワールになるのではなく、芸術監督の推薦とオペラ座総裁の任命によってのみその地位を得ることができるという名誉ある称号なのだ。

もちろん名誉には責任も付いて回るのだが……。

 

この映画はバレエ団の舞台を客席側から撮ったドキュメントではなく、あくまでもダンサー側から見たバレエ団の姿になっているところが徹底している。

普通はバレエ団の裏側を取材していても、舞台を取材する時は客席側に視点が動いてしまうものだ。

でもこの映画は舞台を常にダンサーたちの目で追いかける。

稽古場での連日のレッスン。

繰り返されるリハーサル。

本番の舞台袖から脚光を浴びるステージを覗き見して自分の出番を待つ者。

客席に輝かしい笑顔を振りまきながら舞台袖に引き上げると、そのまま椅子の上に座り込んで、肩どころか全身で呼吸しているダンサーたちの苦しげな表情。

 

こうして映画は華麗なバレエの舞台を裏側から見せてくれるが、同時にダンサーたちの内面にも深く入り込んでいく。

 

バレエ学校の生徒や教師たち、バレエ団員が語る学校時代の思い出。

念願の入団がかなった後も、四六時中つきまとうプレッシャー。

出演者が決まった後も、虎視眈々と出演のチャンスをうかがう代役のダンサーたち。

自分自身のダンスや体型に対する不満。

年齢による体力の衰え。結婚や出産の問題……。

映画ジャンルのひとつに「バックステージもの」と呼ばれるものがあるが、この映画はドキュメンタリーでありながら、ひとりひとりのダンサーや関係者にインタビューを録ることで、フィクション以上にドラマチックな「バックステージもの」に仕上がっていた。

映画の導入部がパリ・オペラ座バレエ団の日本公演になっているのは偶然だろうが、日本人の観客にとっては親しみやすい導入部と言えるだろう。

東洋人として初めて団員に選ばれた日本人ダンサー藤井美帆も出演、できることならコメントが欲しかった。

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