アンデスの大地に刻まれるアース・アート 7

熱帯の乾いた大地を今にも這い出しそうな写実的な描写

~ ペルー ナスカの地上絵 クモ ~

現代の大半の日本人は毎日、朝早くに自宅を出て夜遅くに自宅に帰る。

一日で自宅にいる時間は短くても、やはり我が家にいるときが最も落ち着く。

煩わしい人間関係や生活環境から切り離された空間が、天国として機能するのだ。

我が家にいる時間をより豊かなものにするために、住人は整理整頓をして清潔に保とうと心がける。

ところが、どんなに努力をしても、いつの間にか、どこからか、小さな侵入者に見舞われる。

特に夏の暑い時期には、その種類も数も圧倒的に増える。

ゴキブリ、ハエ、蚊などは、人間にとっては招かれざる客だ。

姿を見かけた途端に、殺虫剤を噴射する。

家に無断で侵入する生物の中にも、人間の役に立つものもいる。

クモは部屋の隅に巣をはり、人間に不快感を与える小さな生物を捕獲してくれる。

益虫に分類されても、容姿から不気味な印象をもつ人も多い。

有難い存在でありながらも哀しいかな、喜ばれる存在ではないようだ。

古代ナスカの人々は、クモにどのような印象をもっていたのだろう。

 

ナスカの地中からはクモが描かれた土器が数多く出土している。

古代ナスカの人々にとっても、クモは身近な存在であったに違いない。

土器に描かれたクモは写実的であり、数匹のクモが連ねた図案でデザインされることが多い。

クモは一度に数多くの卵を産む特徴をもっている。

民族の繁栄を願う多産や豊饒をイメージすることができる。

 

ナスカ台地のパンパの中にもクモが描かれている。

長さ約46メートルにも及ぶ巨大なクモだ。

極めて写実的な絵柄は、上空から眺めるとクモ以外の何者ではない。

シンメトリーに描かれた8本の足は、2本セットで独特のカーブをもって描かれる。

前足には前進するためのエネルギー、後足には体を安定させるためのエネルギーが蓄えられているかのようだ。

口にある鋏角や、糸の出る腹部などもくっきりと鮮明な輪郭線で描かれる。

大きな円状の腹部には、獲物を捕らえるために巣を作る糸の原料がたっぷりと満たされていそうだ。

不運にも糸にかかってしまった獲物は、クモの鋏角に捕らえられ、全く身動きをとることができなくなってしまうことだろう。

リアルに描かれた地上の絵は、今にも砂漠の上を、糸を引きながら這い出しそうだ。

 

イギリス人作家のグラハム・ハンコックは、このクモは、「リチヌレイ」と呼ばれるアマゾンの熱帯雨林にしか生息しない稀少な種類であると推定している。

その根拠は、右足の内の1本の先が直線状に延びていることだ。

「リチヌレイ」は、第三脚の先に瘤状の生殖器をもっている。

ところが、実際の「リチヌレイ」の体長は数ミリであり、足の長さにも匹敵するような長い生殖器をもっているわけではない。

クモの地上絵は、ナスカの人々の身近な生物に対する卓越した観察力と、デフォルメする描写力が産み出した図柄なのだろうか。

 

一方で、ドイツからナスカに移り住み地上絵の研究に没頭したマリア・ライヘは、クモの地上絵を星座のオリオン座であると主張した。

夕暮れ時にオリオン座が空に輝くと、まもなくアンデスの高地から水が川に注ぎ込むと言う。

実際にナスカの地で、空と川と大地を眺めた研究者の推論には説得力がある。

両者の推論を肯定することにも否定することにも、一般人にとっては大きな意味を持ちえない。

厳しい自然環境の中で残されたナスカの地上絵は、現代に生きる人々に様々なロマンを与えてくれていることに価値があると言えるだろう。

そこには、古代ナスカ人がもっていたロマンに通じるものが、きっと存在すると信じたいものだ。

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