アジアの遺跡に見る時空を超えたアート 67

象徴的な役割を果たす古代神話の世界の神々の像

~ タイ バンコク ワット・プラケオ 3 ~

現在9代目を迎えるタイ王朝のチャクリー朝は、バンコク市内をゆっくりと流れるチャオプラヤ川の袂に、宮殿と守護寺院を建造した。

ワット・プラケオの敷地内に建てられた建築物は各々ユニークなデザインをもち、タイの伝統様式に加えてヨーロッパから持ち込まれた建築様式が、バランスよく融和している。

 

広々とした敷地内を歩くと、タイの歴史を感じながら、多種多様の建築美に出会うことができる。

 

巨大な建造物にはタイの文化が凝縮しているが、建物の壁や周囲にも、タイならではの装飾や彫刻が鏤められている。

ワット・プラケオを取り囲む回廊には6つの門がある。

 

一つ一つの門には各々、背筋を伸ばした門番が厳然とした姿で直立している。

赤鬼と青鬼が一対となって門の両脇を固める。

日本の寺院の正面の門に立つ金剛力士像を思わせる。

 

写真(遺跡67-2)

 

金剛力士像は高い所から足元を歩く人間を睨めつけるような形相をしているが、ワット・プラケオに立つヤックは、サルのような顔立ちをしている。

大きな目を見開いてはいるが、中央に団子鼻をもつ表情には愛嬌が感じられる。

でも、古代インドの叙事詩『ラーマーヤナ』に登場する鬼神なのだ。

人の肉を好物とする恐ろしい存在だ。

棍棒のようなものを両手で持って構え、魔物が近づいてくれば撃退することだろう。

この出で立ちであれば、門番としての役割をパーフェクトに果たすことができよう。

鬼であれ動物であれ、顔は一つであるはずだが、ヤックには大きな顔の上に2段の顔が積み重なっている。

大小3つの顔で、足元を行き交う人や動物に睨みをきかせているということなのだろうか。

 

ヤックには男性的なパワーが漲るが、女性的な優美な姿で寺院を守る門番もいる。

下半身が鳥の姿をもつ半人半鳥のキンナリーは、しなやかな曲線をもち穏やかな姿をしている。

 

写真(遺跡67-3)

 

前屈みのポーズは官能的でありながらも、気品を湛えている。

キンナリーも、寺院の正面の左右に二体が一対となって立っている。

施設を守護しているというよりは、訪れた人を暖かく招き入れているように見える。

キンナリーはインドの神話に音楽の神として登場し、特に歌声が美しいとされている。

美しい姿をもつ天女であり、ときおり地上に舞い降りて来て、水浴びなどをして遊ぶと言う。

緩やかなカーブを描くラインは、視覚的なメロディーを奏でていると言うことができる。

黄金色に輝く姿はまばゆいばかりだ。

体の前には細い杖を準備しているが、この杖を振りかざすことなどなさそうだ。

 

敷地のほぼ中央には、プラ・スワンナ・チェディと呼ばれる黄金色に輝く仏塔が聳えている。

 

写真(遺跡67-4)

 

尖塔が空に向かって伸びる姿には神々しさが漲る。

この仏塔の最下層の台座は、半人半獣のクルットゥが全囲を取り囲んでいる。

クルットゥは等間隔に並び、その全てが両手両足でアルファベットのXの文字のような格好をしている。

塔の重みに耐えながらも両手で仏塔を支え、両足を地につけ踏張っている。

腕にはどのような重さにも持ちこたえるパワーが秘められている。

一つ一つの顔を順番に見ていくと、それぞれが異なった表情をしている。

身に纏う衣装の配色も、一つとして同じものはない。

共通するのは手足に漲るエネルギーのみで、仏塔に繊細な装飾性を施しているのだ。

広大な敷地をもつワット・プラケオだが、細部にまで注意を払いながら歩くと、いたるところに造形美が鏤められていることに気づく。

一度や二度では、ワット・プラケオの魅力の全てに気づくことはできない。

訪れる度に新しい発見があるのがワット・プラケオの魅力なのだ。

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