アンデスの大地に刻まれるアース・アート 9

長方形、円、曲線のシンプルな幾何学図形要素で、リアルに描写された飛翔昆虫

~ ペルー ナスカの地上絵 トンボ ~

近代化が進む日本の都市部からは、自然がどんどん消滅しつつある。

昔から人間と共存していた生き物の数も種類も、年を追うごとに減少している。

夏休みにも子ども達が虫取り用の網を手に、昆虫を追いかける姿は見かけなくなってしまった。

様々な昆虫を虫カゴに入れて、友達と見せ合った思い出は遠い過去のこととなってしまった。

古代ナスカに暮した子ども達は、きっと豊かな自然の中を自在に走り回っていたことだろう。

トンボを追いかけることもあっただろう。

子ども達の記憶を留めるようなトンボの地上絵がナスカのパンパに描かれている。

トンボの翅が左右に2枚ずつ、同じ長さで平行に描かれている。

 

ナスカのアーティストは、動物の特徴を損ねない範囲で簡略化するのが得意技なのだが、トンボの翅はあまりにシンプルだ。

しかし、トンボの翅の特徴はしっかりと捉えている。

地上絵のような姿で、翅を休めているトンボを見た記憶が鮮明に甦ってくる。

トンボは他の昆虫とは違って、翅を曲げて背中の上で畳み込むことができない。

とまっているときは、翅を背中から空に向かって垂直に立てるか、左右に水平に広げることしかできない。

空中を飛ぶときは、2対の翅を交互にはばたかせて飛行し、空中で静止するホバリン飛翔をしたり、後ろ向きに飛んだり、宙返りしたりの曲芸飛行をするトンボもいる。

トンボは空中では器用に翅を使うのだが、後片付けはあまり得意ではないようだ。

 

長方形で描かれる翅の前方の頭には、円形の眼が描かれている。

シンプルな幾何学図形の組合せだ。

体の輪郭線より薄いラインで描かれ、よく目を凝らさないと見落としてしまいそうだ。

全長約230メートルのトンボの中に、約5メートルの直径で描かれており、実際の大きさはかなり大きい。

トンボは小さな目を集めた複眼という特徴的な眼をもつ。

子どもの頃、トンボをつかまえるときには、目の前で自分の指をグルグル回したものだ。

複眼で回転する指を見ると、トンボは目を回すと言われるからだ。

でも、この方法で首尾よくトンボをつかまえた経験はない。

それより、近づく前に逃げられてしまうことの方が多かった。

 

トンボの複眼は1万にも及ぶ個眼群で構成されていると言われる。

約270度の視界が効くという話もある。

わずかに首を傾げるだけで全方位360度の光景を目に収めることができるのだ。

目をまわす前に広角レンズに捉えられ逃げられてしまうのだ。

 

トンボは、広い視野と飛行技術を巧みに利用して採餌する。

カ、ハエ、チョウ、ガなどの昆虫が空中を飛んでいるところを捕らえて餌とする。

トンボには歯はなく、捕らえた餌は大きなアゴで噛み砕く。

どんなに固い食料でも強力なアゴで粉々にしてしまうのだ。

ナスカの地上絵では、鋏のような曲線で描かれ如何にも丈夫そうだ。

このアゴの下には袋状のカーブが描かれている。

ところが、トンボの体にはこのような袋に当たるものがない。

地上絵を逆向きにして、袋状の曲線をトサカに見立てればオウムに変身するかもしれない。

またクチバシが鉤状になっていることからコンドル、アゴから袋状の曲線が下に延びていることからペリカンを連想する人もいるようだ。

他にも多種類の動物が想像されるかもしれないが、現状ではトンボと判断するのが最も一般的だ。

長い胴体が描かれていれば文句のつけどころのないところだが、胴体は描かれなかったのか、描かれたものの消えてしまったのかはわからない。

でも、翅、眼、アゴは、トンボの特徴をリアルに表現している。

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