大好物のウチワサボテンを中心にして作る縄張り
~ ガラパゴス サウス・プラザ島 リクイグアナ ~
かつて、日本の家庭で飼うペットと言えば、イヌかネコであった。
人間は動物と言葉によるコミュニケーションをとることはできないながらも、気持ちを通い合わせることができるようだ。
でも、ペット好きの人は、イヌやネコでは飽き足らず、ネズミ類やトカゲなどの爬虫類にまで守備範囲を広めている。
中には、イグアナを飼う家庭まで出てきた。
日本の家庭で飼われるイグアナは、グリーンイグアナという種類で、体色は鮮やかな緑色をしている。
北アメリカ大陸から南アメリカ大陸の広いエリアに生息するグリーンイグアナだが、日本ではきわめて珍しい。
太平洋に浮かぶガラパゴス諸島にも、数多くのイグアナが生息している。
ガラパゴス諸島を訪れたダーウィンは、『ビーグル号航海記』の中で、サンティアゴ島にはリクイグアナの巣が一面に広がっているため、テントを張る場所を探すのに困ったことが記述されている。
ガラパゴス諸島には、ガラパゴス・リクイグアナとサンタフェ・リクイグアナの2種類のリクイグアナが暮らしている。
いずれもガラパゴスの固有種だ。
ガラパゴス・リクイグアナは諸島内の多くの島々に広く分布しているが、サンタフェ・リクイグアナはサンタフェ島にのみに生息している。
サンタ・クルス島の東の沖合約400メートルの位置に浮かぶサウス・プラザ島は、全長約500メートルの島の中を夥しい数のリクイグアナが這い回っている。
サウス・プラザ島は火山活動ではなく、海底が隆起することによって形成されたため、土壌にイオウ分が少ない。
ガラパゴスに特徴的な景観を作るウチワサボテンが、豊かに実を結ぶ。
リクイグアナの最も好きな食物はウチワサボテンだ。
サウス・プラザ島は、リクイグアナの楽園と言うことができそうだ。
ウチワサボテンの袂には必ずと言っていいほど、リクイグアナの姿を見かける。
ウチワサボテンの周りをテリトリーにして、一頭ごとに縄張りをもって生活を送っている。
足元の岩場を這うために、鋭いツメをもってはいるのだが、木登りはできない。
大好物のウチワサボテンを目の前にしながらも、幹をよじ登って食料にありつくことはできないのだ。
木陰で、茎や花、果実が上から落ちてくるのを待っている。
トゲがついたままの茎を食べても、お腹をこわすことはない。
未消化のまま排泄するだけのことだ。
いくらウチワサボテンが好物だからと言って、同じものばかり食べていては栄養が偏ってしまうことだろう。
実はリクイグアナは何でも食べる。
昆虫、カニ、鳥の死骸、ウチワサボテン以外の植物の新芽や花などだ。
特に幼体のときには、昆虫を好んで食べるようだ。
成体になると体長は約120センチ、体重約6キロの巨体となる。
足のツメを使って固い岩場を器用に歩き回るが、動作は俊敏とは言い難い。
頭部から四肢にかけての体色は深みのある黄色となっている。
これに対し、背中から腹の部分は黒色に近い茶色を呈している。
繁殖の時期には、オスの頭部の黄色が鮮やかさを増すという。
背中にはトゲ状の突起が走っている。
この突起は、ガラパゴス・リクイグアナでは背中の部分のみなのだが、サンタフェ・リクイグアナでは尾の先端まで続く。
いずれのリクイグアナの尾も、ウミイグアナに比較すると短めで、断面は丸い形状をしている。
正面から顔立ちを眺めると、細い目に小さな鼻孔をもち、大きな口を前に突き出している。
頭部のトゲのようなトサカはトレードマークになっているのだろうか。
頭を上下に振りながら地面を這う姿には愛嬌が漲る。